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『作戦たーいむっ』
『クーちゃんに鈴ちゃん、あつまって~』
『おっ、なんだなんだ?』
『井ノ原さんはそこに座っていてくださいっ』
『お、おぅ…なんだかよくわからんが』
「小毬ちゃん、真人くんの前でどーどーと作戦会議開いちゃってますネ」
小毬さんらしいというか何と言うか……。
『――真人君って、アドバイスって言っても聞いてくれないと思うの』
『でね……って……ってどうかな?』
『こまりちゃんは天才だなっ』
『それは奇想天外な発想なのですっ』
「ほう…コマリマックスが策を立てるとはな」
「真人に何か仕掛けるようだな。お手並み拝見といくか」
……来ヶ谷さんと恭介が小毬さんに悪影響を及ぼしている気がする……。
『んじゃあ、作戦たいむしゅーりょーっ』
『よぅし、みんないくよ~』
『ラジャーっ!』
『おー』
『何が何だか全くわからんが……おぅ!』
真人まで返事しちゃってるし。
「……井ノ原さんって、人がいいんですね」
「いい人って言ってあげてよ……」
『えーっと……コホン』
『わあ。クーちゃん。こんなところで会うなんて奇遇だね。』
『小毬さん。はろーなのです。こんなところで会うなんて奇遇です。』
――何かが始まったみたいだけど……素晴らしいほどの棒読みだ!
『ちょっと待ておまえら…さっきから一緒だろ?』
真人から当然のようなツッコミ。
『――ばきぃ!』
『静かにしろ』
『うおっ!? い、今、オレなんで蹴られたんだ!?』
『クーちゃん。今日はとてもいい天気です。』
『はい。とてもいい天気です。』
『って無視かよっ!?』
……真人が完全にスルーされ、淡々と話が進められていく。
「……シュールだな」
「シュールっすね……」
『わわ。クーちゃん。ポケットからはみ出している筋肉ミュージカルのチケット2枚は何ですか?』
『き、筋肉ミュージカルだとっ!? なんでクー公がそれ持ってんだよ?』
『はい、これは筋肉ミュージカルのチケット2枚です。』
『って無視かよっ!?』
「ふむ、小毬君が先に筋肉ミュージカルと言ってしまった為に、会話がつながっていないな」
「しかも芝居に一生懸命で、真人の声が聞えていない様だな……」
「稀にみるグダグダっぷりだぜ……」
小毬さんを推薦した恭介ですら引いている……。
『おおー。それは筋肉みゅーじかるのチケット2枚じゃないか』
ここで鈴まで入ってきた!
『チケットが2枚なら、これで筋肉好きなあの子を誘えば、どっきんデートができるな。』
『はい、2枚のチケットだとどっきんデートです。』
『2枚だと2人だからどっきんデートだね。』
『……な、なにぃっ!?』
あ、真人が「デート」の単語に食いついた。
『はい。ですが、私は予定が入ってしまい、筋肉ミュージカルのチケット2枚が必要なくなってしまったのです。』
『いらないなら仕方ないね。燃やしましょう』
って、すごい展開だっ!
『そうだな。燃やそう。』
『はい。燃やしてしまいましょう』
『ちょっと待ったぁぁぁぁ!!』
「――お、すごい勢いで真人が食いついたな」
『いらないなら、その筋肉ミュージカルのチケット2枚をオレにくれっ!!』
『あれれ。真人君だけなら1枚でいいよね? なんで2枚なのかな?』
『う、うぐっ…そ、それは……』
うわっ、小毬さんから意地悪な質問だ!
『真人君、もしかして…だれかめろりんらぶなあの子がいるの?』
『……い、いねぇよ』
『よし、燃やそう』
『ちょ、ちょっと待てぇーっ!』
『井ノ原さんは今、恋しちゃってるですかっ?』
『……い、いや…してねぇよ』
『よし、燃やそう』
『うおっ!? ちょ、ちょっと待てぇ!』
『…………』
『……い……』
『……い…いるよ、好きな奴が……』
『オ、オレの横に座ってた…リボンが似合う可愛らしい顔したヤツだよ……』
真人の口調から、すごく照れまくっている様子がわかる。
「そんな照れられても……」
あんまり照れられると、僕としても困る。
「おうおう、ついに真人君が自ら認めましたヨ。やるねー理樹ちゃんコノコノーっ」
葉留佳さんに肘でコツコツと小突かれる。
「男殺しだな、キミは」
ニマニマとした来ヶ谷さんに、ポムポムと肩を叩かれる。
「……井ノ原さんが頬染めたところで、全く…そう全く美しくありません」
……本当に西園さんは、真人に何か恨みでもあるのではないだろうか?
『ふっふっふ…まんまと引っかかりましたね井ノ原さんっ』
しめしめ、といったクドの声。
『これは、井ノ原さんに自分の気持ちを白状させて、恋のあどばいすをしようというお芝居だったのですーっ』
『きっと真人君…自分で気持ちを認めない限り、私たちのアドバイスなんて聞かないと思ったから』
……確かに真人は、そういうところは人に相談しないようなタイプだ。
真っ直ぐ「恋のアドバイスしてあげる」なんて言っても「しらねぇ」の一点張りだっただろう。
『見事にこまりちゃんの策にはまったようだな』
『何いぃぃぃーーーっ!? 今のは全部芝居だったのかぁーーーっ!!』
いやまあ…気付いてないと思ってたクドたちもスゴイけど、気付かなかった真人はもっとスゴイと思う。
『このチケットであの子をデートに誘っちゃいなよ、ゆーっ』
『ですよ、ゆーっ』
『ゆーっ』
『い、いいのか! ありがとよ!』
『これであの子と筋肉デートを…………』
『…………』
『…………』
『どうしたの真人君?』
『しまったぁぁぁーっ!?』
『女の子なんて誘ったことがねえから、どーすりゃいいのかわかんねえっ!』
『だいじょーぶっ』
『まずは私たちと一緒に、デートに誘う練習をしましょー』
『こ、小毬……何から何までありがとな』
『今のオレには、おまえが……恋のキューピーに見えるぜ』
カッコつけた割には、セリフが違っていた!
『わ、私まよねーず?』
『キューピーさんと言ったら…すっぽんぽんで、まっぱだカーニバルなのですーっ!?』
『え? 何か間違ったのか、オレ?』
『い、いいい今の真人君には、わわわわわ私がすすすすすすすすっぽんぽんに見えちゃってるのっ!?』
『へ?』
『う、うわあああああああああああんっ!! 真人君けだものーーーーーーーーっ!!』
『お、おいっ!? こ、小毬――』
『う、うあああーーんっ!! 目つきがなんかすっごいやだぁーーーーーっ!!!』
『うおおおおおぉぉぉっ!? なんでいきなり毛虫のごとく嫌われてんだぁぁぁーーーっ!?』
『――ばきぃぃぃぃぃぃぃぃ!』
『ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』
『こまりちゃんに何てことするんじゃーーーっ!! このド変態っ!!』
――無線機からは小毬さんの泣き叫ぶ声と、真人の絶叫がエンドレスで続いている……。
「……今、気付いたのですが」
「……あの場には天然系の人しかいませんね」
「ああ、ボケがボケを呼ぶ…まさにボケスパイラルの完成だ」
――果てしないボケとボケの応酬が、無線機の向こうで繰り広げられていた……。
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