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「……ど、どうして、こんな大事(おおごと)になっちゃったのかな……」
「たぶん…ぶつかった相手が悪かったんだと思う…」
――ここは放課後の僕たちの教室。
いつもは放課後ともなれば静けさに包まれているのだが…今日は違った。
「くらえクド公ーっ! 地獄のラウンドブランコ・EXーーーっ!!」
「わ、わふーーっ! EXとか付けたらかっこいいのですーっ!」
「…………」
「うえええ、酔う早さもEX…」
「あの…大丈夫ですか?」
クドを振り回したのはいいけど、気持ち悪くなって介抱されている葉留佳さん。
「ぶら~っしっんぐー、ぶら~っしっんぐー」
「りんちゃんの髪、さらさら~」
「ほめられると…はずかしい」
イスにちょこんと腰掛けてる鈴の髪の毛をとかしている小毬さん。
「なにぃぃぃーーーっ!?」
「……驚きすぎです」
「『Thunder』って『ツンデレ』って読むんじゃねぇのかよっ!?」
「……はい、それは『サンダー』と読みます。雷、という意味です」
「あぶねぇ、危うく今日の英語の宿題に『ゴルフをしていたら突然ツンデレが現れたので、慌ててズボンのベルトを外した』と書いちまうところだったぜ…」
「……捕まりますよ?」
わけのわからない掛け合いをしている真人と西園さん。
「理樹君、タイが曲がっているぞ」
「タイ?」
「胸のリボンのことだ」
「どれ、おねーさんが直してやろう」
「ふむ…ついでに髪も綺麗に結い直しておくか」
「あ。ありがとう」
教室には僕たちしかいないのに…いや僕たちしかいないからか、とても騒がしかった!
さっき来ヶ谷さんが何かやってると思ったら、みんなを呼び出してたんだ。
「――真人少年、恭介氏と謙吾少年はどうした?」
来ヶ谷さんが僕の髪を結いながら、教室を見回している。
「あいつらなら、この後の準備がどうとかでどっかに行ったぜ」
う…恭介のことだからまた何か変なことを準備してそう。
「仕方あるまい。二人抜きで始めるとするか…ほら理樹君、完成だ」
「ありがとう」
「…………」
結い直してもらった頭の髪を指でほわほわといじる。
「うん」
「「「……………………」」」
来ヶ谷さんと西園さんと真人が僕の様子をじっと見ている。
「え? みんなどうしたの?」
なんか目つきが怪しい気がするけど。
「――いやなに」
「嬉しそうに髪をいじるキミに萌えていただけだ」
「ぶっ!?」
ついつい吹き出してしまった!
「いやいやいや!! 別に僕は嬉しそうになんか――」
「……ついに目覚めた直枝さん、萌えます」
西園さんまで「ぽ」という顔でそんなことを言い出すしっ!
「そ、そんなんじゃなくて僕はただ……」
「ただ、なんだ? おねーさんに続きを言ってみてくれ」
………………。
……ただ、「髪、キレイに結えてるかな?」なんて思ってしまったんだ!!
「…………うっ」
だんだん女の子に感化されてきてしまっていたようだ!!
「う、うあああああーっ!!」
「……困惑顔の直枝さんも萌えます……ぽ」
「萌えないでよぉーーーっ!」
「このまま女としての人生を歩んでみてはどうだろう?」
「どうだろう、じゃないからぁぁぁーーーっ!!」
「安心しろ、理樹っ!」
「ま、真人っ」
「オレはおまえが男だとか女だとか…そんな小さなことは気にしねぇ!!」
「気にしてよっ!!」
「気になったんだが…なんで男同士は付き合っちゃいけないんだ? おかしくね?」
「そこは疑問に思っちゃダメだからーーーっ!!」
あぁあぁ…僕はもう正しい道に戻れないかもしれない…。
「あの、私はどうしたら…?」
「「「「あ…」」」」」
そして、杉並さんはすっかり忘れられていた……。
「みんな、こちらに注目してほしい」
来ヶ谷さんの一言に、みんなの視線が来ヶ谷さんに集中する。
「まずは紹介したいのだが――」
来ヶ谷さんが杉並さんの方に目をやる。
「うわぁ!?」
――ガタタタッ!
「ど、どうしたの、りんちゃん?」
鈴がすごい勢いでイスから立ち上がって、小毬さんの後ろに隠れた。
「………………」
小毬さんの横から少しだけ顔を覗かせている。
「……な…」
「……並盛さん」
「あ、あの…私、杉並…なんだけど」
「…うーみゅ…」
「……す…すきやきさん」
「あ、あの……私、杉並……」
「…うーみゅ…」
「りんちゃん、だいじょーぶだよ」
小毬さんが鈴に優しく声をかける。
「うう…こまった」
鈴の人見知りは前よりも良くなったとはいえ、未だ健在だ。
「ど、どうしよう…」
杉並さんもみんなの視線にオドオドとし、僕の方に身を寄せる。
「…………」
なんか鈴のこっちを見る目がコワイ気がするけど…気のせいかな。
「姉御ーっ、理樹ちゃんの隣にいるその子は?」
そっか、葉留佳さんは別のクラスだから杉並さんのことを知らないんだ。
「今から紹介しようとしていたところだ」
「――杉並女史、良ければ自己紹介してくれ」
「え、う、うん…」
「あの…杉並睦美です…。よ、よろしくお願いします」
困惑した顔の杉並さんがペコリと頭を下げる。
みんなからは「よろしくねー」とか「けっ、筋肉が足りねーぜ」とか「エロいっ、真人くんの視点がエロいっ」「エロくねぇよ!」とかやってる。
「はいっ、来ヶ谷さん、質問がありますっ」
クドが挙手をしている。
「なんだね、クドリャフカ君?」
「あの…私たちなんで集まったのか聞かされていません」
ちなみに僕も杉並さんも教えてもらっていない。
「そのほうが色々盛り上がると思ったのでな」
うわ、来ヶ谷さんがどんどん恭介に似てきた気がするよ…。
「――では、今回のミッションについて説明する」
「「「はいっ!」」」」
ミッション、という言葉が出た途端にみんなに気合いが入る。
…みんなこのミッションって言葉に弱いんだよなあ。僕もだけど。
「こちらの杉並女史なんだが」
くい、と杉並さんを自分の方に寄せる来ヶ谷さん。
「なんでも理樹君に――」
「!? あっ、だ、ダメッ!」
「こく……フグッ」
顔を真っ赤にした杉並さんが、大慌てで来ヶ谷さんの口を塞いだ!
来ヶ谷さんの口を塞ぎながら全力で首を振っている!
「理樹ちゃんにこく? こく…こく…国民投票ーっ!!」
「わふーっ! 私もリキに清き一票を入れるのですーっ」
「街中に理樹の笑顔が張り出されるのかよっ!? オギオギしてオチオチ街も歩けねぇじゃねぇか!」
「……まさか今、上手いこと言ったとか思いませんでしたか?」
「うおおおおーっ、ツッコまれると微妙に恥かしいじゃねぇかよっ!!」
「……ちなみに国民投票は選挙とは違います」
「じゃあ、こく…こく…こく…地獄蝶ーっ!!」
「……死神代行・直枝理樹、ですか」
「……極楽にいかせてあげるわ」
「いろいろ間違ってると思うよ……」
憶測が憶測を呼んでしまっていた!!
「――端的に話すことになるが、杉並女史にはどうしてやりたいことがあるらしい」
「だが、杉並女史には最後まで実行する勇気がない」
「そうだな?」
――こく、こくっ
杉並さんが頷く。
「そこでだ」
「我々リトルバスターズで、杉並女史が勇気を持てるように鍛え上げよう、というワケだ」
みんなから「おおおーっ!」と声が上がる。
「あ、あの……が、がんばります」
まだリトルバスターズのノリには着いてきてはいないものの、がんばろうとしている杉並さん。
「人助けなら任せてよー」
「私も一肌脱ぐのですっ」
「フォッフォッフォ、はるちん秘伝を伝授してあげますヨ」
「……勇気でしたら、まずは同人誌をそのまま手で持ち歩くことをオススメします」
「筋肉の筋肉による筋肉関係の悩みだったら、早くそう言えってんだよ」
なかなかみんなノリ気なようだ。
「よし、杉並女史。こっちを持っていてくれ」
「あ、うん」
どこからか取り出した巻物の端を杉並さんに持たせる。
――バシュッ!
達筆な字が空間を舞う!
「ではこれより――」
「『限界バトル叩きつけて!! 杉並睦美育成計画』を決行する!」
「「「「「「うわーーーーーっ!」」」」」」
――パチパチパチパチーーーッ!!
盛大な拍手が教室中に鳴り響く!!
誰も、途中消してある「調」とか「教」とかの字にはツッコまないんだ…。
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