前回<花ざかりの理樹たちへリスト>次回
僕は今、教室前の廊下にひとりで立っている。
(みんな、中で何してるんだろ?)
教室の中からは
『こんな感じ…かな』
『ほう、随分と古典的なことをするな』
『わふー!? それはもしや恋文――ふぐふぐっ』
『……直枝さんに聞えてしまいます』
『待てっ、オレも書くっ』
『文章だけよりちょこっと絵も描こうー』
『あ、それいいかも…』
『あたしにも描かせてくれ』
『うん』
などなどと聞えてくる。
――さっきの試合は、最後まで残っていたということで僕たちの勝ちということになった。
単純にみんなより食べる量が少なかっただけなんだけど…。
ホントに良かったのかなあ。
何はともあれ、杉並さんが他のチーム全てに勝ったんだ。
最初の約束どおり、杉並さんがしたいことをみんなで手伝うこととなった。
…………。
けど、なぜか僕だけ外されている…。
(中が気になるっ)
気になるけど『理樹ちゃん、見たくても見ちゃダメだからね』『……見たら例の写真を校内新聞に載せます』と釘を刺されているので覗けないっ!
(はぁ…)
胸元のリボンや靴下の位置を直しながら、みんなが出てくるのを待った。
――ガラガラ~
ようやく、みんながワイワイガヤガヤと出てきた。
「みんな何してたの?」
僕がそう聞いた瞬間。
――ビクーッ!!
「な、な、なんでもないっ」
「な、なんでもないよ~っ」
「な、なんでもないのですっ!」
「な、なんでもないぞっ!」
杉並さん、小毬さん、クドに鈴…どうしてこうもわかりやすいんだろう。
「うむ」
ポンと来ヶ谷さんに肩を叩かれる。
「キミの机の中をよく見てみてくれないか?」
「え? いいけど…」
「――よし、出撃だ杉並女史」
「うん!」
「行くぞ」
「「「「おーーーっ!」」」」
「え!? ちょっ……」
止めるのも聞かず、なぜか気合いの入っている女性陣は特別教室がある方向へと歩き去って行った。
「理樹、オレはおまえを信じてるからなっ!」
真人も僕の頭をポンと叩いてみんなと同じ方向に歩き去った。
教室に入り、言われた通り机の中を覗く。
「……あれ?」
机の中には折りたたまれた手紙が入っていた。
手紙の表面には可愛らしい文字で――
『直枝理樹さん江
杉並睦美より』
と、書いてあった。
…………ガサガサ、ごそごそ。
……ペラ。
『直枝くんへ
突然こんなお手紙を見てビックリしたと思います。
どうしても直枝くんに直接伝えたいことがあるんです。
もう一度私と会ってください!
理科室で待っています。
杉並 睦美』
手紙を開くと、こんな文面が書かれていた。
杉並さんから手紙をもらうのは本日2回目だ。
――前にもらった手紙は、もっと文字がガチガチしていたんだけど。
きっと杉並さん本人も緊張して書いたんだと思う。
今の手紙は……。
文字が柔らかい。
きっと、杉並さんも笑顔で書いていたんじゃないかな。
そんな気がした。
「――これはちょっと…」
文章の周りを見て苦笑いが浮かぶ。
そこには、きっとみんなが描いたのだろう絵が描かれていた。
これは…タヌキ?
……『←テヅカ』だって。
その横には可愛らしい花々でデコレート。女の子らしい。
……『←これは全部らふれしあなのです~』だそうだ。
こっちはイタチ? フェレットかな?
……『←ゆーのくんだよ~』。よくわからない。
さらに左下にはさり気なく、だが異様にリアルな肖像画が。きっと総理大臣だ。
……『←亜内検事』。てっきり総理大臣かと思ったのに。
右下に目を移すと、デフォルメされたキャラの絵。
……『←スザク×ルル』。なんでだろう…絵から邪(よこしま)な念を感じる。
真ん中らへんには、ウサギっぽいのが描かれている。
……『←うさぎさんっ』。たぶんこれが一番まともな絵だと思う。
「あれ?」
もう一通手紙…というか無造作に破ったプリントを折りたたんだ物が出てきた。
――がさごそ、ペラ
『おまえの笑顔に
……筋肉バスター』
正直どーでもよかった。
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