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――放課後のグラウンド。
僕たちはいつも通り集合したのだが……。
「――やっぱり今日は野球の練習お休みかな?」
残念そうにしている小毬さん。
「私も参加できると思ったのに…残念」
杉並さんもしょんぼりとしている。
「いったいあの馬鹿二人はどこに行ったんだ?」
「放課後になってから一度も見かけないね」
鈴が言う馬鹿二人とは、恭介と謙吾のことだ。
いつもなら二人とも大はしゃぎで校庭に出てきてるのに、今日に限ってどこにもいない。
本当にどこ行っちゃったんだろ…?
「今日という日に、あの恭介氏が何もしないでどこかに行ってしまうとは考えがたいが」
「……そうですね、恭介さんのことですから何かを考えているのかもしれません」
来ヶ谷さんと西園さんが僕をチラリと見る。
「いや、あんまり何かを考えられても困るけど」
恭介が何を考えるかはわからないけど、きっと考えてるとしたら僕が大変な目に合う気がする…。
「ま、しばらく待ってみようぜ」
「そうですネ、恭介くんと謙吾くんが戻ってくるかもしれないし」
「そうだね」
「もし恭介と謙吾の野郎が戻ってこないようならよ…」
「オレが昨日TSUTAYAで借りてきた『肉離れ ~ミート・グッバイ~』をみんなで一緒に見ようぜ!」
「「「「「…………………………」」」」」
「って、無視かよっ!?」
そのよくわからない映画の魅力を必死に説明する真人を無視して、僕たちは二人を待つことにした。
「――はい、理樹ちゃん。カントリーマアムをどーぞ」
「ありがと、小毬さん」
小毬さんたちと木陰に腰を下ろし、のんびりとした時間を過ごす。
「ゆいちゃんは…」
鞄をごそごそとする。
「じゃ~ん、カラムーチョだよ~」
「ほう、さすがはコマリマックス。気が利いているな」
「えへへ~」
――ゴソゴソ。
「あとね、チップスターとコアラのマーチとチロルチョコ3つとおせんべいがありますよー」
「うわ…」
鞄からは次から次へとお菓子が出てくる。
…なぜ小毬さんが今の体型を維持できているのかが不思議なくらいだ。
「ね、小毬ちゃん、チップスターもらっていい?」
「あ、私も」
「どうぞ、はるちゃんに杉並さん」
「……では、わたしはコアラのマーチをいただきます」
「どぞどぞ」
「…ふっふっふ…」
チップスター2枚を口にくわえる葉留佳さん。
「見て見て、たらこくちびる~」
「絶対やると思ったよ…」
きっと、とんがりコーンだったら指にはめていたに違いない。
杉並さんの方に目を向けると。
「…あっ…」
恥かしそうにして、そそくさと口にくわえてたチップスターを外してるし…。
「――ハッ」
コアラのマーチを食べている西園さんが鋭く息を呑んだ。
「どうしたの、みおちゃん?」
「……まゆげコアラが出ました」
西園さんが一匹のコアラを僕たちに向けた。
「ほわぁっ!? ほんとだっ! まゆげあるっ!」
飛び上がるほど驚く小毬さん。
「わ、かわいい…」
「ひゃあーっ! みおちんいいないいなーっ!」
みんなコアラのマーチに釘付けだ。
さっきからみんな驚いてるけど…いったい何なんだろ?
「えーっと、まゆげコアラって?」
「えーっ理樹ちゃん知らないのっ!? 女の子の間ではこれ、ジョーシキですヨ、ジョーシキ」
「あ、いや…」
とりあえず僕は男の子だということを忘れないで欲しい。
「……『まゆげがあるコアラがいたら幸せになれる』――コアラのマーチの都市伝説です」
「へぇ…」
「……まずは落ち着いて、写真に収めるとしましょう。かしゃり、かしゃり」
デジカメを取り出して色んな角度から撮影してるし。
「私にも撮らせて~」
「はるちんもっ」
「あ、このハンカチ敷いてその上に置こう」
「杉並さんのハンカチかわいい~」
まゆげコアラを下に置き、みんなでそれを取り囲み撮影会が始まってしまっていた。
「……ふむ……」
「あれ、来ヶ谷さんは写真撮らないの?」
「ああ」
「黄色い歓声を上げながら、立ちヒザで突き出したオシリをふりふりとしている女史たちを見ていたほうがいいものでな」
「って、どこ見てるのさっっ!?」
たしかに下に置いたコアラのマーチを撮ってるから、みんなそんなポーズになっちゃってるけどさっ!
「…エロい…」
「エロいのは来ヶ谷さんの見方だよっ!!」
この人の頭の中はそればっかりな気がするよっ!
「――ふぅ…」
いつも通りの騒がしさに、どこかのんびりとした空気を織り交ぜた時間が流れていく。
僕はカントリーマアムを頬張りながら、グラウンドに目を移す。
「待て待てー、なのですーっ」
「ふっ、遅いぞ」
クドと鈴が追いかけっこをしている。
その傍らでは。
「221…222…223…224…225…」
真人がうさぎ跳びをして追いかけている。
「997」
あ、鈴が口を挟んだ。
「226…997…998…999…1000!!」
「…ヘッ…やったぜ…ついにやっちまったぜ!!」
「たった今オレは奇跡の立役者になっちまった!!」
「い、井ノ原さん…ついに…ついにやりましたねっ」
クドが真人に駆け寄る。
「私は奇跡の目撃者になってしまいましたっ!!」
「ああ、1000の大台突破…だがオレ自身、正直まだそんな実感が湧かねぇ」
「そんなことはありませんっ、偉業を成し遂げた人物はみんなそのようなことをおっしゃいます!」
「偉業か…。見ろ、その甘美な響きに全身の筋肉さんたちが震えてるぜっ!」
「クー公! 偉業記念の筋肉センセーショ……ぐあぁっ!?」
「わ、わふーーーっ!? い、井ノ原さんっ!?」
「1000回を……」
「越えたひずみ……か……」
「井ノ原さぁぁぁーーーんっ!!」
……。
めちゃくちゃ盛り上がっちゃってるしツッコむのは止めておこう…。
「…………」
「……はぁ……」
それにしても恭介たちはどこに行っちゃったんだろ?
携帯をチラリと覗く。
「……はぁ……」
いつもは連絡の一つくらいくれるのに。
「……物憂げな表情をしていますよ」
西園さんがいつの間にか隣に座っていた。
「あ、うん…ちょっと、ね」
「……やはり恭介さんがいないと寂しいですか?」
「そんなことは…」
ない、と言おうかと思ったけど…。
「寂しいかな、やっぱり」
正直な気持ちを口にした。
「…………」
「どうしたの、西園さん?」
「……ぽ」
「って、なんでそこで赤くなるのさっ!?」
突然西園さんは頬を染め、その染まった頬を両手で押さえていた!
「……一時の別れが永遠の別れのように感じて、胸が張り裂けんばかりなのですね」
「……愛し合う二人……ぽ」
「いやいやいやいやいやいやっ!?」
どこをどう捉えればそうなるかはわかんないけど、激しく妄想空間に入り込んでいたっ!
「今寂しいって言ったのは変な意味じゃ――んぐっ」
口にコアラのマーチを突っ込まれた!
「言わずとも、わたしは理解していますから」
「……棗×直枝……ぽっ」
「全っっ然理解出来てないからぁぁぁーっ!」
「……応援しています」
「しなくていいよっ!」
もぅーっ、西園さんってばーっ!
「どうしたの?」
さらに杉並さんが顔を挟んできた!
「あ、いや別にっ」
「なに直枝くんあわててるの?」
「……ええ、実はかくかくしかじか」
「え、ええええーっ!?」
間違った解釈が間違ったまま伝聞されていた!
「いやっ、だからそれは違って、僕は変な意味で言ったんじゃなくて――」
「…………」
「ただ毎日遊んでる恭介がいないから、なんか寂しいというか残念と言うか……」
「…………」
「応援するねっ」
「いや、話聞いてよっ!?」
「大丈夫、直枝くんなら男の子と付き合っても違和感ない…よ」
「それ励ましてないからねっ!?」
「えと…ほら…、愛は国境を越えるっていうし…性別くらい…きっと越えれるよっ」
「そこ越えたらダメだからぁーっ!」
杉並さんは「やればできるよ」というポーズしてるしっ!
「…恭介さんってかっこいいし、気持ち…わかる」
「話聞こうよっ!?」
「――ハッ!?」
杉並さんが鋭く息を飲んだ。
「ど、どうしたの?」
口に手を当てたまま止まる杉並さん。
「……」
「……」
「……だから女装したんだ……」
「いやいやいやいやいやいやいやっ!! 違うからぁぁぁーーーっ!!」
「これは朝じゃんけんで負けて、来ヶ谷さんに無理やり着せられちゃっただけでっっ!」
「そっか…」
「はぁぁ…ようやくわかって――」
「尊敬しちゃうな…好きな人のためにそこまで出来るって」
杉並さんは頬を桜色に染め、熱いため息をついていた!
「うわああああぁぁぁーーーっ、だから話聞いてよぉぉぉーーーっ!!」
その時だった。
――♪~♪~♪~♪
「あ、直枝くんの携帯鳴ってるよ?」
「恐らく恭介氏からだろうな」
「……直枝さんの口元が緩んだ気がします」
「いやいやいや、それ偏見だからっっ!」
そう言いながらも、急いで携帯を開いて確認してみる。
『
FROM:棗恭介
タイトル:マジヤバイ
』
「え、なんだろ…?」
「ほわっ、まさか恭介さん大ぴんち?」
「恭介氏のことだ。本文を読んでみなければ何とも言えんだろうな」
「えっと、本文は……」
『
マジヤバイ。
マジでヤバイぜ、こいつは。
どれくらいヤバイかって?
マジでヤバイ。
』
「えーっと…?」
本文を読んでも何とも言えなかった!!
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