前回<花ざかりの理樹たちへリスト>次回
――みんなで僕の携帯を覗きこんでいる。
「ふえぇ…?」
「わふー…?」
「みゅー…」
みんなも、要約するとつまりヤバイと書かれた(と言うかそれしか書かれていない)メールを見て目をパチクリしている。
「――なるほど」
来ヶ谷さんが何かを察したようにアゴに手を当てる。
「え、これだけで何かわかったの?」
「ああ」
ふむ、と頷く。
「どうやらヤバイのは恭介氏の頭のようだ」
「……なるほど、それは納得です」
「いや、そんなこと言わないであげてよ…」
僕ももう一度メールを見直す。
これはきっと恭介の身が危ないっていう意味じゃないよね。
もしそうだったら、メールよりも電話を掛けて来る。
たぶん、また恭介的に面白いことを思いついちゃったんだ…。
あまりの閃きに興奮して、こんなメールになっちゃったんだと思う。
なんか…ヤバイのは僕の身のような気がするけど。
「はぁ…」
溜息混じりに顔を上げると。
「ふえええええぇぇぇぇーーーっ!? きょきょきょ恭介さんの大ぴんちだよーっ!!」
「わふーっ!? これは一大事なのですーっ!!」
「馬鹿兄貴……馬鹿ながらにそこそこの兄貴だった」
メールの内容通りに受け取っちゃってる人たちがいた!
鈴に至っては既に恭介を亡き者にしてしまっている!
「ほわっ!? わかったっ!」
……小毬さんも何かがわかってしまったらしい。
「小毬さん、何がわかったの?」
「犯人さん」
「えぇーっ!?」
「わふーーーっ!! さすがは小毬さんなのですっ!」
どうやら小毬さんの頭の中では、恭介が思った以上に大変なことになっているようだ!
「この前、テレビで闇の組織が暗躍してるって聞いたのです」
小毬さんがぴっと指を立てる。
「黒ずくめでいかにも怪しそうだったよー」
「あ、それでしたら私も小耳に挟んだことがあるのですっ! 黒ずくめで、みなさんお酒の名前なのですっ」
闇の三河屋さんか何かかな。
「きっと恭介さんはその人たちに奇妙な薬を飲まされて……」
「小学生になってしまわれたのですーっ!」
「たいへんだーっ」
「たいへんですーっ」
大体小毬さんとクドの指すものはわかったけど。
「それはフィクションだからね…」
「……短パンショタ系恭介さん、ですか」
「西園さんもそんな夢見る少女みたいな顔しないでよ…」
「実はオレはそいつのモノマネが得意でな。ちょっと聞いてくれねぇか」
「え、そうなの?」
自分のノドをリズミカルに叩く真人。
「ワレワレハ、エドガワコナンダ」
「って、それ宇宙人のモノマネだからーっ!!」
「え、コナン君って宇宙人じゃねぇのか!?」
この人は根本的に勘違いしていたっ!!
――~♪~♪~♪
そんな騒ぎをしていると、今度は全員の携帯が鳴った。
携帯を開いてメールを確認する。
『
FROM:宮沢謙吾
タイトル:すまなかった
』
今度は謙吾からのメールだ。
本文に目を向ける。
『
訳のわからんメールを送ってしまってすまなかった。
恭介が興奮しすぎてしまっていてな。
変わりに俺が連絡を伝える。
イトーヨーカドーの近くに『あやめ』という店がある。
洒落た店だ。すぐにわかると思う。
悪いが今からそこに来て欲しい。
恭介から追伸だ。
なるべく急いで向かってくれ。
だが車には気をつけろよ。
奴らは時として牙を向き、おまえたちを襲ってくるからな。
…恐らくそういったことを伝えたいのだと思う。
』
今度は普通のメールだった。
謙吾が一緒に行ってくれてよかった。
もし恭介一人だったら、きっと次のメールも解読不能だったに違いない。
「恭介さん、無事みたいだよー。よかったね、クーちゃん、鈴ちゃん」
「よかったのです~」
「ふう…危うくあたしが蘭ねーちゃんの立場になってしまうところだった」
この3人は本当に胸を撫で下ろしてるし。
「イトーヨーカドーっていったら、15分も歩けば着きますナ」
あの辺はよく僕たちが買い物に行く場所だ。
「けど宮沢くんが言う店って何の店かな?」
杉並さんが小首をかしげる。
「うーん…」
僕も初めて聞く店だ。
みんなもクエスチョンマークを浮かべているところを見ると、心当たりがないようだ。
「………………」
そんな中、西園さんがいそいそとデジタルカメラと格闘している。
「どうしたの?」
「……はい、いらない写真を消そうと思って」
「……これから大量消費すると思いますので」
心なしか西園さんがワクワクしているように見える。
「……かしゃり」
僕に向かってシャッターを切るフリをしてるし。
もしかして恭介の考えが読めたのかもしれないけど…僕は嫌な予感がして聞けなかった。
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