前回<花ざかりの理樹たちへリスト>次回
続いて、鈴。
「じゃあ、コレだな」
即断1秒。
「ささっとっ」
なんのためらいもなく爪楊枝の一本を摘まみ、引っぱり上げた。
「どれど………………――――」
爪楊枝を覗き込んだ瞬間、鈴が固まった。
「りんちゃん、どうしたの?」
「……」
小毬さんの呼びかけにも反応しない。
ま、まさか…。
「――どれ」
来ヶ谷さんが硬直中の鈴の手から爪楊枝を抜いた。
「なるほど」
爪楊枝を持った来ヶ谷さんの手がゆっくりと上に掲げられる!
――ゴクリ。
そこにあったのは…。
先の赤い爪楊枝だ!
「「「「「「おおおお~~~」」」」」」
周りから驚きとも落胆ともとれる声が漏れた!
「OK、じゃあ…」
恭介が僕の肩に手を置く。
「このカップリーメロンソーダを飲むのは理樹と鈴で決定だな」
また妙な名前付けてるし。
「理樹、いいか?」
「う、うん」
「鈴もいいか?」
「…………」
鈴はまださっきのクジを引いた姿勢で固まっていた。
「鈴?」
「…………」
「鈴、どうした?」
ポン、と恭介が鈴の頭に手を置いたそのとき!
「ふ、ふみゃぁーーーっ!?」
――ガタタタタンッ!!
びっくりした野良猫のように、鈴は飛び上がり席を立った!
「あ、ああああ、あたしがかっ!?」
「なんだ不服なのか?」
「ふ、ふくくに決まってるだろっ!」
混乱しているのか噛み噛みだっ!
「だって」
びしーっ!
僕に真っ直ぐ指を向ける!
「こいつだぞっ、こい――」
目が合った。
ぽんっ
瞬く間に鈴の顔が朱色に染まった!
「う……」
「うみゃーーーっ!」
肩を怒らせて威嚇しているっ!
「こ、ここここ」
「こっち見んなーっ」
「えっ、あ、ご、ごめん」
そそくさと鈴から目線をそらす。
「とっ、とにかくイヤなもんはイヤじゃっ!」
ここまで拒絶されると、結構ショックかも…。
「――恭介氏、無理を強いるのは良くないと思うんだが」
「……それもそうだな」
ふぅ、と一つ溜息をつく恭介。
「鈴。おまえのクジはなかったことにするが、それでいいのか?」
「……」
鈴の目が戸惑いの色を示すが、
「うみゅ…そ、それでかまわない」
語尾は蚊が鳴くほどだった。
「ささ鈴さん、席にかけて下さい」
クドがイスを戻し鈴を座らせる。
「無理はよくありませんですし」
うー、僕って無理扱いなんだ…。
「けど鈴ちゃん…すごいよ」
「……なにがだ、杉並さん」
「だって、自分でやりたくないことをはっきりやりたくないって言えるんだもん」
「……」
あれ?
目に見えてションボリとする鈴。
「ん? どうしたんだ鈴?」
恭介が声をかける。
「……」
「……なんでもない」
なんでもない、ならいいと思うけど…。
「――にしてもよ!」
真人がニカッと笑い、テンション高めに口を開く。
「たかだか同じジュースも飲めないなんて、おまえらしいぜ! 鈴はホント、ガキだよなっ」
そう言った瞬間。
――ゴキンッ!!
「ゲフンッ!?」
本日2度目のスプーン来襲!
見事に真人の眉間を捉えていた!
「痛ぇな、鈴、コラ!! おめぇ今、本気で投げてきただろっ!」
「うーーーーっさぁーーーいっ!!」
鈴からメラメラと怒気が上がってるっ!?
「うおっ!? なんでおめぇキレてんだよっ!?」
「馬鹿兄貴っ!!」
ギンとした鋭い目が恭介に向けられた!
「ど、どうした?」
「あたし、やっぱり理樹とジュース飲むぞっ!」
「は?」
「聞えなかったのかっ! 理樹とあたしとで一緒にジュースを飲むんだっ」
「ま、まあ構わんが…」
「理樹っ」
「ハイッ!」
オニのような目を向けられて、僕もついつい敬語になる!
「理樹もいいかっ!」
「ハイッ!」
「こんなウルトラくちゃんこ馬鹿にバカにされてたまるかっ!」
うわ…。
よっぽど真人にカチンときたようだ…。
真人はと言うと。
「マジで痛ぇ…鈴の野郎、本気で投げやがりやがって」
「これ以上馬鹿になっちまったらどうすんだよ、ったくよぉ」
「大丈夫よ、井ノ原は馬鹿にならないわ」
ふん、と鼻で笑いながら佳奈多さんが答える。
「いやーだって真人君、脳みそ筋肉ですからネ!」
「へ? それはつまり、オレの頭は鋼のような筋肉で守られているから、脳までダメージが及ばないってことか!?」
「やべぇ、また筋肉に守られちまったぜ」
ちなみに佳奈多さんの言葉の意味は「それ以下にはなりようがない」だし、葉留佳さんは言葉通り「脳みそまで筋肉」という意味だ。
真人も嬉しそうにしてるし、あえてツッコまないでおこう…。
「………」
そして珍しいことに来ヶ谷さんが真人を見ていた。
「縁の下の力持ち、か」
「来ヶ谷さん、どうしたの?」
「いや、なんでもないさ」
前回<花ざかりの理樹たちへリスト>次回