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ミディの放浪日記~第2枠 サバイバル実行 -camping out- (オリジナル)
作者:義歯

紹介メッセージ:
 小さな女の子が紡ぐ小さなファンタジー物語。

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第2枠 サバイバル実行




「―――で、だ。」

町を出た所で俺は切り出した。

「何よ?」

「お前らどっちから来たんだ? それが分からねぇと動きようがねーだろ」

探し物をしているのならば、一度通った地点はできる事なら二度通る必要はない。
いや、通らない方がいいんだ。時間の無駄になる。

「はいはいはーいっ」

「ん、ミディ。どっちから来たか教えてくれるのかな?」

「うんっ!」

…しかし、この子は笑顔を絶やさないよな。

「あっち!」

びしぃっ、と町の中を力強く指差す。
おまけにかなり得意げな表情だ。

「…あー、うん…偉いぞミディ。うん」

「えへへー」

俺が内心どう思ってるかは秘密だ。

「…さて、イリス。どっちから来たか教えてくれ」

「え、だからあっちでしょ。」

イリスも同じように町の中を指差す。

「あーのーなぁ…」

ガックリと肩を落とす俺。

「なーにーよぉ。」

「お前は方角で答えるとかしろよ…」

「えーっと。北よ、王都の辺りから来たから」

じゃあ南方面に向かって行けばいいわけか…。
都合いいな。
南にはアイツもいるし、町までは遠くない。
子供の足じゃ、ずっと歩いてるって訳にもいかないだろうしな…。

「うし、それじゃ出発するぞ」

「…どこによ。」

「今言っただろー。聞いてなかったのかよ?」

イリスの目が細くなった。

「聞くも何も喋ってないじゃない。ねぇミディ?」

「うん。どこ行くのか、おしえてほしいな」

…あれ?

「俺言ってなかったっけか?」

「言ってないわよ。」

「っかしいな…。えーっとな」

仕切り直し。

「これから向かうのは南の方。1日も歩けば町があるから、そこ目指すことにする」

「アテはあるの?」

「ああ、知り合いが住んでるはずだ」

「…はず、ってどーゆーことよ?」

「1年前の話だからなー。まだ居るかどうかは知らねぇ」

「何のアテもないよりはマシ、ってことね…」

そゆこと。

「じゃ、出発するぜー」

「しゅっぱーつ!」


***



-夜-

「いっただっきまーす♪」

「…。」

ささっと夕飯に手を伸ばすミディ。

「あんま慌てて食うなよ? 喉詰まらせちまうぞ」

「へいきだもーん」

「…。」

まあ、食べ盛り育ち盛りだし、多めに見てやるとするか。うん。

「…ねぇ、カイ~…」

「んあ?どうしたミディ」

「さっきからイリス静かだね?」

照れているんだか恥ずかしがっているんだか、横に目をそらすイリス。

「…。」.

この減らない口ばかりある女が何故喋っていないのか。
一体どうした事か!
待て! 次号!!

…そうじゃなくてな、何でこうなったかって言うとだ。



***



-1時間前-

「ねえ、夕飯どうするの?」

キャンプ地を決めたところで不意にイリスが問う。

「あー…決めてねぇや。どうすっかな」

「ジャンケンで決めちゃうとか?」

…いきなり何を言い出すこの女。
俺やコイツに当たるのならいいとしても、

「ミディが当たったらどーすんだよ?」

「なぁになぁに? なんのおはなし?」

「晩飯の当番の話だ」

「ばんめし…?」

「…晩ご飯の事だ。」

「ふぇ。わたしもお料理してみたいなぁ」

…むう。なったらなったで俺達が見ててやりゃあいいか。

「ま、ジャンケンでいいか。んじゃ行くぞー」

「はいはいっと」

「ふぁーい」

……………。

「じゃ、イリス当番な。よろしく。」

「…納得いかない。納得いかないわ。」

イリスの全身から殺気が漲る。
頼むから睨んでくれるな。

「何だよ、ちゃんとジャンケンしただろ?」

「何よ、あの『最初でポン』ってのは! 普通、最初はグーでしょ!?」

「最近の流行なのになー。なー、ミディ」

「ねー」

「うッ…ミディまで知ってたって言うの…」

俺の勝ちだな。やったぜ。

「さ、ごちゃごちゃ言ってないでメシメシ。頼んだぜー」

「…仕方ないわね。待っててね、2人とも」

自分で勝負方法決めたくせに仕方ないとか言うか、おい…。
さて不安なのはメシが出来るかどうかなんだが…年頃だし、料理の1つや2つ大丈夫だよな…。



***



-数分後-

「ねぇ~、なんだかケムリすごいよぅ~」

「ゲフッ、ゲフ」

煙の中を彷徨うミディとむせ返る俺。

「だ…だーいじょうぶだって! このくらいどうって事ないってば!」

…すっげえ不安。

「なんか手伝ってやろうか?」

「いいわよー。こういうのは男が居ても邪魔になるだけだから」

「あ、そ…んじゃ任せるけどよ…」

…毒とか出ないうちに仕上がるんだろうな?
近くにいたはずの動物がいなくなってるし…って言うか近くに生き物の気配がない。
…虫すら寄って来やしねぇ…。



***



-さらに数分後-

辺りに暗雲が立ち込めた。

「ふぇ~、まっくらになっちゃったよぅ~」

真っ暗って言うか真っ黒って言うか。

「おいこらイリスッ! 前見えねぇじゃねぇかっ!」

辺りに見えるものは何も無い。
近くにいるはずのミディの姿すら捉えることが出来ない。
この闇を作り出した張本人のイリスなんてもっと見ることができな…

「えーっと…カイ、いる? ちょっとこっち来て」

暗闇の中心部から声がする。
ひとまず、声を頼りに向かってみる。
そこへは、難なく着くことが出来た。

「あ、来た来たっ。」

「……。」

「ね、カイ。これ…」

恐る恐るイリスの手元を見ると、未だに黒煙を上げ続ける「元・肉」入りのフライパンが。

「…どうしよっか♪」

「おいーーーっ!!」


***



そのあとは俺が交代して晩飯作りにとりかかったわけで…。
イリスに肉料理禁止令を出したのは言うまでもない。

「…ねぇ、カイ。」

食う手を休めて聞いてくるイリス。

「…あなた、何でこんなに料理上手い(うまい)の?」

逆に聞きたいわい。

(…お前、何であんなに料理下手い(へたい)んだ?)

ってな。
聞いたら殴られそうだからやめとくけど。

「俺は一人暮らし長いからな。今でも一人だし」

「ふうん…そういうものなの。」

「ところでよ」

今の一件で浮かんだ疑問をぶつけてみた。

「何?」

「…お前ら、俺と会う前は食事どうしてたんだよ?」

「………。」

「えっとねぇ~…」

イリスが沈黙する中、ミディが割って入った。

「木の実いーっぱい食べてたんだよー」

「…木の実?」

「うんっ!」

…不憫な子だなぁ。心底そう思うよ。

「イリスがたっくさんおしえてくれたんだよねっ、ねーイリス♪」

「あ…うん、そ、そうね…あはは…」

「えへへー」

フォローになってないぞ。ミディ。



***



む。

「もうこんな時間か…」

「何時?」

イリスが聞いてくる。
…時計くらい自分の使え。

「22時だ」

「あ、もうそんなに遅いのね…。ミディ、明日もたくさん歩くからもう寝ようね」

「はーい、おやすみなさーいっ」

ぽてっ、とイリスの膝枕。

「くぅ…くぅ…」

「はえぇ…もう寝てら」

その間、わずか数秒であったと言っておこう。

「疲れてる…わよね。あれだけ歩いたんだもん」

俺と話すときとは別人のような表情で、眠ったミディの髪を撫でる。
…そう言えば気になってたことがあるんだったな。聞いてみるか…。

「なぁ。」

「ん?何?」

「お前たちってどういう関係なんだ? まさか姉妹じゃないだろ?」

「当たり前でしょ」

少し、ムッとしたような表情で答える。

「…じゃあ一体何なんだ、コイツは?」

俺は眠っているミディを指差しながら問うた。

「…あなたって世の中のことに疎いの?」

「あ? …どういう意味だよ」

「知らない訳じゃないでしょう? いつからか、どこかに出没するようになった女の子の話。」

聞いたことはあった。
その子は、ふらっと町に寄ったかと思うといつの間にかふらっと居なくなる。
その姿たるや道行く人が皆振り返るほどの絶世の美少女だとか、
地獄から来たような形相をして怪物どもを連れ歩いているだとか…色々だ。
俺も、既に一人歩きを始めた状態の噂を聞いただけだったので、話半分で聞き流していた。

「それが、このミディだって言うのか? イリス」

「たぶん、ね。」

ミディの髪を梳きながらイリスは話を続ける。

「誰も顔を見てないのにか?」

「顔は見れない…と思う。」

は?

「…何でだよ?」

「この子…会った時、下向いて歩いてたから」

今のミディからは考えられない事だ。
いつでもにこにこ笑って、ぽてぽて駆け回っているミディからは、とても。

「まだ…一人で抱え込んでるのよ、この子…」

言ってたな。探し物がある、けどまだ秘密だって。

「探し物のことも話してくれない…。私、嫌われてるのかな…?」

今まで見たことのないイリスの表情。
まるで別人のように弱く、脆く、崩れやすく感じた。

「…嫌ってたらついて来ないだろ。俺は嫌いな奴とは一瞬でも居たくないと思うぞ」

「そうなんだけど…。それは分かってる。だけど…」

「うにぃ…」

…ミディは、よく眠っている。

「私が分かっていても…」

「…イリスぅ~…」

「えっ」

驚いて髪を梳いていた手を止める。

「…くぅ…すぅ、すぴー…」

「なんだ…寝言、かぁ…」

ほっとしたように、またミディの髪を梳いてやるイリス。
ミディは寝ながら顔をほころばせている。

「なぁ、イリス」

「うん?」

「明日も早えぇんだからもう寝ろよ。お前みたいなお子様は俺と違って疲れやすいからな」

「だっ! …誰がお子様よっ!」

「…ミディ起きるぞ?」

「あ…っ、たく…もう! もう寝るっ!」

「おうおう、寝ろ寝ろ。」

ミディを寝床に移し、俺に背を向けて寝る体勢になる。

「………。」

そのまま、イリスは小さく言った。

「…おやすみ…」


-第2枠 了-

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