ミディの放浪日記~第3枠 機械都市 -artificial human-
(オリジナル)
作者:義歯
紹介メッセージ:
小さな女の子が紡ぐ小さなファンタジー物語。
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第3枠 機械都市
「ふぇ~~~~~~~…」
「はぁーーーーーーー…」
…何やってんだこいつら?
「おい? 何ボケッとつっ立ってんだよ?」
「ねぇねぇねぇっ!」
興奮に目を輝かせてミディが飛びついてくる。
「あ、ああ?」
「おっきい!」
「あー…ああ、町の門がでかいって事か?」
ぶんぶん頷く。
そりゃあ…俺の居た所にはこんな立派な門なかったからな。
…どうせ田舎町だよ。
俺がミディ、イリスと会って3日目。
パトナ…ってのは俺が居た町だが…を出て1日ちょい。
俺達はほぼ予定通りに南の都市に着くことが出来た。
本当ならば町に入ってまずすることは、宿屋を探すことだが、ここは別だ。
この町には、俺の親友であり、恩人であり、上司であった男がいる。
そいつを頼ればきっと何とかなる…だろう。
…多分な。
***
-機械都市 ハイアード-
ここは、国の南側では最大の都市だ。
北側にある王都のラクソールと、川をはさんで丁度向かい合った位置にあることから、
第二の都とか言われてたりもする。
が、実際は都とは程遠いものだ。
歴史に詳しい訳じゃないが、昔、この辺の鉱山から取れた鉱石から、
新しい金属を精製することが可能になったらしい。
それからココの町は栄えてきたってわけだ。
今じゃ、短い距離を往復するだけとは言え、列車も通ってるもんな…文明って凄いぜ。
まぁ俺は暫くここに居たことがあったから町なんぞ見飽きてるんだが…。
お嬢様たちはそうもいかないらしい。
特にミディなんか真っ直ぐ歩いてない。
気になるものがあれば、即、そっちにぽてぽて走って行くといった感じだ。
「ねぇねぇイリス、あれなーに?」
「どれどれ?」
「あれあれっ」
「んー…何だろうね?」
「ぶぅ」
ミディご立腹。
「じゃあ、あれはー?」
「んーと…?」
「…なぁ、二人とも。」
ようやく重い腰を上げる俺。
「ん?」
「ふぇ?」
「もう少しさぁ、静かに歩けないか…。ご近所のオバチャンの視線がすっげぇ痛いんだけど」
端から見てるとまるっきり「おのぼりさん」なんだよな。
「ふぇっ、でもでもでも、見たことないんだもんっ」
腕を振り振り必死の抗議。
「そうよ、見るくらいなら別にいいじゃない。そんなに急いでる旅じゃないんだし」
早いとこミディの探し物を見つけたいんじゃなかったのか、イリス。
「ミディのしたい様にさせてあげましょうよ。何かきっかけになる物があるかも知れないしね」
…あ、一応、目的は覚えてたのね。安心した。
「…ねえ、今すっごく失礼なこと考えてなかった?」
「考えてない考えてない」
「そう? …おかしいわね」
おかしいのはお前だよ…。
「ねぇねぇ…」
気づくとミディが服を引っ張っている。
…だーから、伸びるっつうの。
「ん? どした?」
「見にいったらだめ…?」
うあ、今にも泣きそうだ。
「あー…いいよ、行ってこい」
「ホント!?」
ミディの表情がぱぁっと明るくなる。
「ああ。転ばないように気をつけろよ」
「わーいわーい♪」
ミディは嬉しそうに先に駆け出す。
旅をしているとは言っても、こういうところはやはりまだ子供だ。
「やっぱミディって可愛いんだよな」
「………。」
後ずさるイリス。
「…何で引いてるんだよ?」
「あ、そのー…あなたってそっち方面の人なのかと思って」
「…そういう意味で言ったんじゃねぇよ。」
***
「ふぁ?」
何かを見つけたのか、少し離れた所のミディがわけの分からない声をあげる。
「ねぇねぇカイ、これなーにー?」
ミディが指差していたのは工場。
ただの工場じゃない、この町で最大の工場(こうば)だ。
「これか? 機械工房だ」
「きかい、こうぼう?」
「機械を作ってるところだ」
「ふぁ~…………キカイ、ってなぁに?」
ミディは頭の上に「?」を数個浮かべて首を傾げている。
「あー…なんて説明すりゃいいんだか…」
ボリボリと頭を掻きながら考える。
と、工場から出てくる一つの影。
「ふぇ、こんにちはっ」
ぺこりと頭を下げるミディ。
その相手こそ『機械』。
確か、ありゃあ…対空戦用水圧式迎撃ユニットじゃなかったか?
まぁいいか。これで説明する手間が省けた。
「おーい、ミディ。それが『機械』っていうんだぞー」
「ふぇー…そぉなんだぁ」
『機械』の周りをぐるぐる回るミディ。
「ほえぇ、ぴっかぴか」
ぺちぺち引っ叩いてみたり。
「かたいよぅー」
子供の好奇心は留まる所を知らない。
「ちょ、ちょっと、ミディ! 危ないからやめなさいっ!」
保護者が止めにかかる。
「安心しろって。あれはもう殆ど動けないんだからよ」
「って、実際動いてるじゃない!」
「でもまぁ、アレを動かせる奴なんてのはまずいねぇよ。そうだろヴァイド?」
『何だ、やっぱりお前か、カイ!』
無機質なはずの機械の中から声がした。
抑揚のある、人間の声。
次の瞬間、『機械』の頭部が二つに割れ、中から人間が出てきた。
「いよう。一年ぶりか、カイ」
出てきたのは無精髭を生やした、俺以上の大男、ヴァイド。
俺の親友であり恩人であり上司であった男だ。
もっとも、上司だったのは過去の話だが。
「ああ、一年ぶりだな」
「どうしたんだよ急に? それも可愛いの二人も連れて。それお前の連れだろ?」
「ああ、まあな。ところでヴァイド…寝る所が欲しいんだけどさ」
「そう来ると思ったぜ」
『機械』から上半身だけを出してヴァイドは続ける。
「『家』行ってろよ。俺も急いで戻るから」
「鍵かかってんじゃないのか? 締め出しはゴメンだぞ」
「今は開いてるはずだぜ」
「そっか。んじゃ、先に行ってるわ」
「おう。後でな」
***
「あぁー、驚いた…」
『家』に行く途中にイリスが呟く。
「何だよ?」
「だって、まさか機械から人が出てくるなんて思わないもの。
それに、出てきた人がカイの知り合いだったなんて…ミディもびっくりしたよね?」
「うん。すっごいおヒゲだったよね、あの人」
「…。」
「……。」
流石はミディ。見るとこが違うぜ。
「…そ、それで」
イリスが仕切り直す。
「私達、どこに向かってるの? さっき、家とか言ってたけど…」
「『家』は『家』だろ。」
「さっきの人の家ってこと?」
「ああ。ヴァイドの家であり、俺達の家でもあった『家』さ。狭そうに見えるけど結構広いんだぜ?」
「鍵は開いてるって言ってたわよね」
「ん、ああ。そのはずだって言ってたな」
はず、ってとこが引っかかるけど。
「っと、ここだここだ」
『家』。
この町に来るのも一年ぶりだったら、『家』に帰ってくるのも一年ぶり。
…色々あったな、一年前は。
あれだけの人数で使ってたここを今はアイツ一人で使ってるのか。
広いな。
もし、それが俺だったら耐え切れないかも知れない。
やっぱりアイツは俺と違って強いってことかな…。
がちゃり。
「お、開いてる。入ってようぜ」
「そうしましょ」
「ふぁーい」
べちんっ!
「ぐあっ」
玄関を開けた瞬間に顔を思い切り叩かれた。
…俺は何もしてないぞ、おい。
「また来たな押し売りー! しつっこいぞ、もう!」
「…は? 押し売り?」
思わず声が裏返る。
「そうだぞっ! あんまりしつこいから、あっ……………たま、来てるんだぞっ!」
うわー。あっ…たま悪そ。
「あのなー。俺達は押し売りじゃねぇっつの。俺が前に押し売りに来たことあったか?」
「ない!」
踏ん反り返って答える。
「だったら…」
「でも変装してるに決まってるっ!」
「するか!」
「お姉ちゃんもそう思うよねっ!?」
騒がしい奴の後ろから、コイツとは対照的におとなしそうな子が一人。
「ええっと…その人、押し売りじゃないと思うな…」
あ、味方だ。
「な、何でお姉ちゃん押し売りの味方するの!?」
「え、だ、だって…その人、いつもの大きな鞄持ってないから…」
「え…あ、あう?」
騒がしい奴の額に汗が一筋線を描く。
「あ…あはは~。あたし間違っちゃったみたいだねー…ごめんなさ」
がしっ。
逃げようとする首根っこを捕まえる。
「はーなーせーー!」
「コイツいると話がややこしくなりそうなんであんたに聞くけど」
やかましい奴を持ったまま、後ろのおとなしい子に話し掛ける。
「あ…すみません。まだあの人帰ってきてないんです…。
お急ぎでなければ御用は伝えておきますけど…」
…うーん。よくできた子だ。
「いや、ここの主に会ってきた昔の知り合いの者だ」
「わ、そうだったんですか」
「ああ。それで先に行っててくれって言われたから来たんだが…上がってもいいか?」
「はい。お上がりになってごゆっくりしててください」
「ありがとさん」
俺達は家の中に上がって休むことにした。
ヴァイドも急いで帰ってくるって言ってたし、それまで少しゆっくりさせてもらうかな…。
「あ…あの…」
「ん? どうした、おとなしい方」
「その子…返してくれませんか?」
「あ、あうぅ~~~~」
…すっかり忘れてたな。
-第3枠 了-
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