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「二人とも、準備はいいか?」
2台のゲーム台の間に立つ恭介が鈴と佳奈多さんに目を向ける。
「いつでもいいわ」
ゲーム台の前に足を組んで座っている佳奈多さんは、いかにも余裕そうに長い髪を右手で払っている。
佳奈多さんの後ろには、グループメンバーである西園さん、葉留佳さん、謙吾、クドがスタンバイしていた。
「来るならきてみろっ!」
対する鈴はカチカチの臨戦態勢!
目からメラメラと火が上りそうだ!
後ろにはメンバーの真人、来ヶ谷さん、杉並さんに小毬さんがスタンバイ。加えて、前にいる恭介も鈴チームだ。
二人の後ろからは「りんちゃんもかなちゃんもがんばってー」とか「ク、クイズの前にいるだけで頭が割れそうだ…っ!」と応援(?)の声が響く。
「では、中立の立場の理樹がスタートの合図を頼む」
「うん」
僕もみんなの前に立つ。
「司会っぽくこの紙に書かれていることの説明も頼む」
「いいけど?」
どうやら始める前の注意事項が書かれた紙みたいだ。
「では…コホン」
「難易度は『ノーマル』!」
「ジャンルは『ノンジャンル』!」
「グループ内で直接答えを教えるようなヘルプは一人一回のみ!」
「それでは――」
紙に書かれた最後の一行は『微笑を浮かべながらクルリと一回転してスタートの合図』と。
どうして回らなきゃいけないのかわからないけど…。
「よ~いっ」
回ればいいんだよね。
――くるり~んっ、にこっ♪
回るのと同時に。
僕の髪を結ぶリボンが風と遊ぶかのように踊り。
スカートがフワリと円を描きながら舞う。
「スタ~トっ!」
「って、やっぱり恥かしいからーっ」
僕のスタートの合図と共に今、ゲームが始まろうと――。
………………。
しなかった!
むしろ静まり返っている!
「え? どうしたの、みんな?」
「…………」
「…………」
なんで佳奈多さんも鈴もそんな顔を赤くして僕のことを瞬きすらせずに見ているのっ!?
ゲーム画面内で何か話しているみのさん似のキャラなんて完全無視だ! 見向きもしない!
「……今、私、直枝くんがキラキラ光ってるように見えた……」
「……リキの後ろにふらわーがーでんが見えました……」
「……理樹ちゃん、お嬢様みたい……」
杉並さんとクドと小毬さんに至っては夢見る乙女のように、目からキラッキラとお星様さえ発しているっ!
「……クフフ、フフフフフ……じゅるり……クフフ……」
「姉御……よだれが出てますヨ」
「食べてもいいか、アレ?」
「いやぁ、姉御の本気顔なんて初めて見ましたヨ…」
来ヶ谷さんは完全に野性の目だ…。
「理樹が回った瞬間、オレのとこまでになんとも言い表し難いいい香りが漂ってきたぜ…」
って真人はいったい何を言い出すのっ!!
「なんだと真人貴様ッ!! 貴様だけズルぞ!! どんな匂いだ!? フゴォォォォォーーーーッ!!」
ワケがわからないけど胸一杯に空気を溜め込め始めた謙吾!
「おっと、謙吾にばっかり美味しいところは持っていかせはしないぜ! スゴォォォォォーーーッ!!」
恭介まで同じことをし始めたし!
正直、こんな幼なじみはイヤだっ!
「……変質者方は放っておくとして」
佳奈多さんと鈴へ目を向ける西園さん。
「……ゲームの勝者が、この直枝さんを独占出来るとは、実に羨ましい限りです」
西園さんがそういった瞬間だ。
鈴と佳奈多さんがピクッと反応した。
「……」
「……」
徐々に二人を取り囲む空気が肌を刺す空間として広がってゆく!
――……ゴゴ……ゴゴゴゴ……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
うわっ!?
鈴と佳奈多さんの二人から、一国へ攻め込む戦国武将を思わせるような威圧感が放たれている!
「直枝っ!」「理樹っ!」
「はイッ!?」
突然二人から呼ばれて声も裏返る!
「「もう一回、スタートの合図ッ!!」」
業火ともいえる炎を宿した二組の瞳が僕の声を今か今かと待っている!
「じゃあ、い、いくよ」
「早くしなさいっ!」「早くしろーっ!」
「は、はいッ」
「ス、ス、スタートっ!!」
僕が言った刹那。
「「難易度、ノーマルッ!!」」
「「ジャンル、ノージャンルッ!!」」
カルタ取り決勝戦のような勢いでタッチ式のパネルにペンを叩きつける二人!
「……二人とも鬼をも狩りそうな勢いですね」
西園さんが我関せずという顔でシレッとそんなことを言う。
「煽ったのは西園さんでしょっ」
派手なファンファーレと共に画面が切り替わり、ついにゲームが始まった。
『第一問! 書き取り問題!!』
「こいっ!」
「鈴よぉ、ゲームにまで返事しなくてもいいだろうがよ」
「うっさいわ!」
気合いが溢れまくっているようだ。
『楽市・楽座政策を広め、本能寺で自刃したといわれている武将は?』
「よかったじゃないか、結構簡単な問題で」
鈴の肩に手を乗せる恭介。
「……」
「鈴? どうした?」
「……」
口を正三角形にしてプルプルと画面を見つめていた。
この顔、まさか…!
「よもや鈴君、この問題がわからないと言うのか?」
ズバリと聞く来ヶ谷さん。
「わ、わかるっ! こんなのいっぱんじょーしきだっ」
そういう割には持っているペンが動かない。
「無理しないでアドバイスをもらったら?」
「う、う、うっさいっ!」
すっかり意固地になっちゃって僕の言葉にも聞く耳を持ってくれない!
「制限時間がなくなっちゃうよ~っ」
「な、なにぃ!」
小毬さんの言うとおり、制限時間が1分切っていた。
「――仕方ねぇな、アドバイスも一人一回の制限があるんだろ?」
「なら、ここはオレの出番ってヤツだな」
腕を組みながら、ニッとした笑顔を浮かべたのは真人だ。
「おまえがこの問題をわかるのかっ!?」
「おうよ!」
目をまん丸にした鈴に、真人が堂々と胸を張っていた。
「ふむ、この問題を真人少年がわかっているなら丁度良いな」
「この1問で真人少年、残り4問を鈴君が解けずとも、杉並女史、小毬君、恭介氏と私の4人でアドバイスすれば全問正解も難くあるまい」
「その作戦だとりんちゃんも全問正解できるね」
嬉しそうに笑顔を浮かべる小毬さん。
「なるほど…」
「あ、あたしもわかるが……仕方ない。聞いてやらなくもない」
ホント、鈴は素直じゃないんだから。
「オーケー」
フッと真人が勝利の笑みを浮かべた。
「オレの記憶が確かなら、そいつの名前は」
「名前は…?」
「織田裕二」
記憶が確かじゃない!!
「あ、あたしだって織田ゆーじぐらい知ってたぞっ! ホントのホントだからなっ!」
鈴はいかにも知ってましたーみたいなノリで書こうとしているっ!!
「わーわーわーっ、鈴ちゃん、ち、違うよ~っ」
「違うのか、杉並さんっ!?」
「そこの答え、織田信長さん……っ」
「信じてるの信に長いの長っ、はやく~っ」
両手をワタワタしながら一生懸命に声を張り上げる杉並さん!
「やばいぞ鈴、あと20秒! 急げっ!」
「ふみゃーっ! バカ真人にだまされるところだったっ!」
へ?へ?とよくわからなそうな顔をしている真人(本当に織田裕二だと思っていたようだ)をよそに、鈴が織田信長と正解を書く。
『正解っ!!』
「ふぅ…たすかった」
額の汗を腕でこする鈴だったけど、すぐに鋭い眼光が真人へと向けられた。
「織田裕二と書いて(織田信長)と読めばいいんじゃね?」
「いいわけあるかーーーっ!!」
ズゲシンッ!!
「だはぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!!」
ゲーム台のイスから舞った鈴のローリングソバットを食らった真人が地面を転がっていった…。
「だが、今回の問題で真人少年と杉並女史のアドバイスを使ってしまったことになるな」
来ヶ谷さんがフムと口元へと手を当てた。
「アドバイスは一人一度。ならば全問正解するためには1問は鈴君が独力で解く必要がある、か」
今回の問題がわからなかった鈴に、他の問題が解けるかは果てしなく不安だ。
ふと佳奈多さんがプレイしている台へ目を移す。
……そこでは佳奈多さんがプルプルと固まっていた……。
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