ミディの放浪日記~第4枠 過去、昔、昨日 -past, past, past-
(オリジナル)
作者:義歯
紹介メッセージ:
小さな女の子が紡ぐ小さなファンタジー物語。
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第4枠 過去、昔、昨日
-夜-
「おう、来てたか」
ヴァイドがのっそりとリビングに姿を現した。
「あ、おかえりなさいヴァイドさん!」
ぱたぱたと出迎えに行くおとなしい方の子。
「おう」
「あの、ヴァイドさん…あの人たち、誰ですか?」
「…。」
一同沈黙。
俺は勇気を出して聞いてみることにした。
「お前…知ってて入れたんじゃなかったのか?」
「えっ、いえ…でもヴァイドさんのお知り合いの方だから大丈夫かなぁって。
…いけませんでしたか?」
ヴァイドと俺は顔を見合わせる。
そして互いに小さく首を振った。
「いや、まぁ…別にいいか、どうでも。それより飯は出来てんのか?」
「あっ、はい。急に人数増えたから簡単に済ませちゃいましたけど」
「だ、そうだ。カイ。すぐ飯にしようぜ」
ちょいちょいとダイニングの方に手招きする。
俺達はそれについて、まず腹ごしらえすることにした。
***
「で…?」
突然、ヴァイドが聞いてきた。
「あん?」
「何の連絡も無しにいきなり来やがって…何か用か?」
「言ったろ。宿が欲しいって」
「ああ、言ってたな…昼過ぎじゃ宿探すのも面倒だしな」
「そゆこと。」
また晩飯に取り掛かろうとすると、ヴァイドはまた続ける。
「しかし驚いたぞ」
「何がだよ?」
「可愛いのと綺麗なの連れて来るとは思わなかったからな」
「えへ」
可愛い、に反応したのかミディがにぱっと笑う。
「お前の方こそ。大人しいのと喧しいのと暮らしてるなんて知らなかったぜ」
「誰がやかましいんだようっ!」
お前だ、お前。
「そうだな、一応紹介しておくか…こっちの」
大人しい方を指差して言う。
「髪が青っぽい方が、咲(さき)で、」
次に喧しい方を指差す。
「赤っぽい方が、彩(あや)。本人たちの弁によると双子らしい」
「らしい…」
ぽつりと咲が呟く。
「何でさ? 見た目同じじゃん?」
大声で彩がわめく。
「…信じられねぇな。」
俺の率直な感想だった。
「俺も、そう思う。」
ヴァイドも同感らしい。
「まぁ、俺の方は後でゆっくり話すとするさ。」
「そうかい」
「だがカイ、お前の方はすぐ話せ。」
…は?
「何でだよ?」
「気になるからだ」
「…ヴァイド、全っ然変わってないな、そーゆーとこ。」
「気になることはすぐ確かめないとどうしようもない性分なんだよ。知ってるだろ?」
子供め。
「ああ、知ってるよ…」
「んじゃぁ話せ」
「ったく強引なとこまで変わってねぇよな…」
俺は頭をボリボリ掻きながらミディの頭に手を置いた。
「ふぁ?」
「まあ、何だ…実のところ俺も事情はよく分からねぇんだ。
言ってみれば、ちょっとした探し物をしてるって所だな」
軽くミディの頭を撫でてみる。
「ふぇ…カイ、かゆいよぅ」
「あ、悪い悪い」
「うにー…」
少し、様子を見ていたヴァイドが口を開いた。
「…まあいい。ここにいる間はゆっくりしてけよ」
頭を気にしているミディを眺めながら言った。
「そうさせてもらうかな…」
***
-暫くして-
「だいぶ時間経ってるよな…ミディ、どっかで寝かせてもらえ」
「ふぇ? まだ早いよ。ほら」
そう言ってミディは時計を見せてくれる。
時刻は17時30分。
「…17時? んなはず無いんだけどな…」
『家』に着いたときには既に16時を過ぎていたはずだ。
「えへへー」
「…。」
ひょいっ、と時計を取り上げる俺。
「あーっ…」
「…ミディ、時計は逆さまにして使うもんじゃないぞ。」
本当の時刻は23時57分。
「うーっ。でもまだおきてるんだもんっ」
珍しくわがままを言うミディ。急に知り合いが増えた所為か、興奮しているのかもしれない。
「だーめ。もう寝ないと、明日起きれなくなっちゃうわよ?」
「ふぇっ、でもでも…ぶぅ」
反逆の狼煙は上がらず。
「私も一緒に寝てあげるから」
「うー…うん、わかったよぅ。…おトイレどこ?」
「彩、連れてってやれ」
ヴァイドがフォローを入れる。
「え? あ、いいよん。こっちだよミディちゃん」
「はぁーい」
ふうっ、と息を吐くヴァイド。
「…さーて、カイ。お前はまだ寝るとか言わねぇよな?」
コイツ、まだ飲む気か…。
「イリス、お前も付き合ってくれよ」
「ヤ。私お酒弱いんだもの。もう酔ってるんだから」
ぐ、コイツ逃げやがった。
「イリスぅ、おやすみしよう~?」
いいタイミングでミディが戻ってくる。
「そうねー、お休みしましょーう」
「おやすみなさーいっ」
ぺこりっ。
「はいはい、おやすみ~…っと」
「じゃ、カイ」
部屋を出るところでイリスが振り向く。
「飲み比べ頑張ってね♪」
爽やかな笑顔でそんなこと言ってくれるとは…鬼か、お前は。
***
「ふぃー」
「…。」
「ん? どうしたカイ。飲まねぇのか?」
「…ああ、お前みたいには飲めないよ」
「だらしねぇなぁ。1年前はお前もこうやってただろが?」
ああ、心の底から後悔してるよ。
誰がウィスキーを瓶で飲むんだっつーの。
「ヴァイドよう…相変わらず酒強いな」
「違うぞ、俺は酒が好きなだけだ」
「あ、っそ…まあいいけどよ」
暫く間が開いた。
「ヴァイド」
話を切り出したのは俺の方。
「あの双子、どうしたんだよ?」
「拾った」
「はぁ!? ちょっと待てよ、俺が出て行った時にはあんなの居なかっただろ?」
「ああ、居なかったな。あの3日後に拾ったんだし」
「は~~~…分かんねぇな」
「何がだ?」
「拾う、ってトコだよ。まさか道端に転がってた訳じゃあるまいに」
「むう…」
少し、考えてからヴァイドは言った。
「…状況としては似たようなモンだったぞ。お前が消えて、ここに住んでるのは俺一人に
なっちまったんだ。それくらいは分かるだろ?」
「ああ」
でもそれとあの双子と何の関係が…。
「お前も知ってる通り俺は酒が好きだ」
ヴァイドは話を続ける。俺は聞き役に徹することにした。
「丁度、酒が切れちまったから酒場に買いに行ったんだな、その日は。」
***
-1年前-
「よう社長!」
酒場に入った俺を店主が茶化した。
挨拶代わりってとこだ。
「社長じゃねぇ、工場長だ。もっとも…部下はもういねぇけどな」
「…済まん」
「なぁに、気にすることじゃねぇ。いつものヤツくれ」
少し、店主と話をしてから俺は家に帰ろうとした。
でもな、ここでちっと気になっちまったんだよ。
何がって? 工場の戸締まりに決まってるだろ。
…コラ、不注意とか言うな。確認に戻っただけなんだからな。
んで、工場の前に来て、鍵の確認するかーっと思ったときだったよ。
「開かないなー…どうなってるんだろ」
「うん…ぐすっ」
子供が二人居たんだ。
背格好も声も同じ、夜だったし、ちと離れてたから顔は見えなかった。
でも話からしてそいつらの居た所はドアの前で、工場の中に入ろうとしてるって事は何となく分かった。
不法侵入…法律も意味がなかったあの頃じゃ変だけどな…とにかく、
黙って入られるのを見過ごす訳にはいかなかった。
それで俺は声を掛けたんだ。
「…何してんだお嬢ちゃん達?」
「ひっ!?」
「う、うわぁっ、出たーーっ!」
全く正反対の反応だったっけな。
「う…ふぇぇーん…」
「お姉ちゃんを泣かしたなっ! 来いっ、熊め! あたしが相手だーっ!」
…思えば、第一印象最悪だったな。
おい、カイ…笑うな。まるっきり熊とか言うな!
「あのなぁ、熊が人間語喋るかよ?」
「あ…。あははー、ごめんねオジサン!」
カイ、お前いつまで笑ってるんだ。いい加減落ち着け。
オジサンがはまりすぎ? …お前だってそのうち、こう呼ばれんだよ。
「…で、何してたんだ嬢ちゃん達は」
「…。」
「あ、あのっ」
そこで今まで泣いてた方が初めて喋った。
ああ、コイツが咲だよ。
「わたしたち、逃げてきたんです…それで、こんなに大きい家ならきっと…」
「きっと金目の物があるだろうから盗みに入るつもりだったのか?」
「違います! そんなことしません!」
「本当か?」
「本当です!」
「じゃあ目を見せてみろ、じっとだ」
澄んだ目をしてたよ。夜だってのに、あの子の目は蒼い色をしてたってのにな。
さっきまで泣いてた所為だろうが、涙なんか溜めて、目も腫らしてな。
それでも真っ直ぐで真っ正直な目だった。
…それで、何か考えちまってな。
俺達も、初めの頃はこう…真っ直ぐで真っ正直だったな、ってよ。
「よし、信じよう」
「ありがとうございます」
信じよう、と言われたのが嬉しかったのか、咲は微笑んで答えた。
彩の方か? あん時はまだドアの前うろうろしてたっけな。
「…何してんだ。」
「変わった戸だなーと思ってー。ホラ、」
と、彩はドアノブを持ってドアごと真横に動かそうと力を込めた。
「開かないじゃん?」
「…アホかお前さんは。こうやるに決まってんだろ」
俺はドアノブを回してドアを開けた。
二人とも目を丸くしてたっけな。初めて見たみたいだった。
あ? 何でドアが開いたんだって…?
…あー、鍵かけ忘れてたみたいだな。ハハハ。
過ぎたことだろ、そんな気にすんなって。
「こうやって開けるんですね…」
「何だ、異国から来たのか?」
「はい。つい最近こっちの大陸に越してきたばっかりなんです…けど…」
ここで俺は、こいつらが「逃げてきた」って言ってたことを思い出した。
ああ、そうだよ。それで家に置いておこうと思った。
だから、そうした。それだけだ。
***
「結局、何からどうして逃げてたのかは聞かなかった訳か」
「ああ」
残りの酒を一気に呷って、ヴァイドは答えた。
「聞かなくたって想像はつく。ついでにそれが当たってるって確信も持てる」
「…そか。話が出たついでだ、これ返しておく」
俺はポケットから鍵状の鉄棒を取り出し、ヴァイドに渡した。
「本体はここから北の黒の森のどっかにある」
「そうか。じゃ、今頃は動物たちの運動場だな」
「それで良いんじゃないか、ヴァイド。お前だってそんな風に考えてたから、
あの二人をここに住まわせてるんだろ」
「まぁな…。もう酒がねえや、そろそろ寝るかー」
伸びをしながら席を立つヴァイド。
俺も続いて立ち上がる。
「しっかし…飲んだな。」
テーブルの上は酒瓶でビッシリだ。
「普段は1本飲めねぇんだ」
「あの大人しい子だろ?」
「ああ、身体に悪いだとか何だとか…俺は年寄りじゃねぇっつーの」
「好かれてるんだな」
「バカ言えよ。おら、寝るぞ」
「へいへい…俺の部屋は?」
「開けてるよ、お前の部屋は。」
「サンキュ」
「そうだ、カイ」
居間を出ようとしたところで呼び止められる。
「いつまでこっちに居るつもりでいるんだ?」
「あー、2~3日中には出るつもりだ」
「そうか。分かった」
「んじゃ、お休みーっと」
-第4枠 了-
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