ミディの放浪日記~第5枠 side-b お天気のいい日は。 -sunny days-
(オリジナル)
作者:義歯
紹介メッセージ:
小さな女の子が紡ぐ小さなファンタジー物語。
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第5枠 side-b お天気のいい日は。
「うー…むにゅむにゅ…」
むっくり。
「ふあ~…ぁ…イリス、おはよう~。…あれ?」
「すー…すー…」
ねてる。
そっか、イリスはわたしよりおねぼうさん。
起こしちゃうと、もう少しねかせて、って言われるから…まだ、おはようはしないよ。
「よいしょ」
ベッドを出て、静かにおへやを出ます。
「あれ、ミディちゃん?」
「ふぇ?」
「おはよう。よく眠れた?」
おへやの前にいたのは、咲でした。
「うんっ。たっくさんねたよ。…でもでも、イリスはまだおねぼうさんなの」
「あ、まだ寝てるんだ…困っちゃったな、朝ご飯片付かないのに」
?
「ねぇねぇ咲ぃ、いま、なんじ?」
「今? 8時すぎてるよ」
「ふぇ!」
どうしよう。イリスだけじゃなくって、わたしもおねぼうさんになっちゃった。
「起こしちゃっても平気かなぁ…?」
「うんっ。…ねぇねぇ、カイもまだおねぼうさん?」
咲は、ちょっとかんがえます。
「んー…まだ起きてないと思うけど。ミディちゃん、起こしてきてくれるの?」
「うん!」
「ありがとう。それじゃお願いしちゃうね。
カイさんの部屋は、2階に上がって右側の…右って分かる?」
「スプーン持つほう」
「うん、そう。そっち側の部屋らしいから…それじゃ、お願いね」
「はぁーいっ」
***
「きゅーう、じゅーう、じゅーいち、じゅーにっ」
2かいに上がって、えっと…。
「みぎがわっ」
ちょっと古い、木でできたドア。k、y…カ、イ…って書いてある。
ここなのかな?
「こんこん」
しーん。
「カ~イ~?」
しーん…。
「入るよー」
「…入るなー。」
あ、カイ起きてる。入っちゃえ。
ガチャ。
「ふぇっ」
おへやに入ると、なんだか、「どくとく」な感じがしました。
「おとこのしんしつのかおりがする」
「…何だよそりゃ」
「あ」
「ん? どしたミディ」
「おっはよっ、カイ♪」
「もう朝か…おやすみ。」
「ふぇっ、ちがうよぉっ、おはようだよぉっ」
「今の俺はお休みでいいんだ…頼むからもう少し寝かせてくれよ」
「…どぉして?」
「俺は今、ものすん………ごい、気持ち悪いんだ」
ふぇ…気持ち悪いの?
「だいじょうぶ…?」
「大丈夫だよ、もう少し寝てればすぐよくなる」
「ホント?」
「ああ、ホントだ」
「…そっかぁ。早くよくなってね、カイ」
「安心してろって。すぐ治っちまうから」
「うんっ。それじゃ、おやすみ、カイ」
***
「ねぇねぇ咲ぃ、カイ起きないよぉ…ふぇ?」
ゆうべ、みんなでご飯を食べたおへや。
咲と、彩と、あと、イリスはテーブルに倒れてるふうに見えました。
「イリス?」
お返事がありません。
ちょっとイリスの近くに行って、もういっかい、よんでみました。
「イリスぅ」
「なぁに、どうしたのミディ?」
こっちを向いたイリスは、いつもの、やさしい顔をしてました。
よかった。
「おはよっ、イリス♪」
「おはよう、ミディ」
***
「ふぇ~…ふつか、よい?」
「うん、イリスさん具合悪いんだって。だから静かにしてようね?」
「ぐあい…ってなぁに?」
「え、えっとね…気持ち悪いんだって」
「きもちわるい…カイとおんなじなの?」
わたしは、イリスの顔を見てみました。
なんか、青っぽくて白っぽい。
「カイも、気持ち悪いって言ってたの?」
「うん、すこしねてればだいじょーぶだ、って…。イリスも、すこしねてればだいじょーぶ?」
「ん、大丈夫だと思う。だからそんな顔しないで」
「ふぇ? そんな顔って…どんな顔?」
わたし、どんな顔しておはなししてるんだろう。
「そんな、心配そうな顔しなくっていいから」
「…でもでも、心配なんだもん」
わたしは、イリスにいつものイリスでいてほしいのに。
あったかくって、やさしくって、やわらかくって。
ずっとずっと、げんきでいてほしいだけなの。
「げんきなほうがいいんだもん…」
つらくって、かなしくって、イリスの顔が見れません。
「ミディ」
「ふぇ…?」
頭に、ふわっ、て感じがしました。
イリスが、頭をなでてくれてる。
「ミディが元気にしててくれれば、すぐ治っちゃうよ?」
「ホント?」
「うん、ホント。」
そっかぁ。
イリスがうれしいと、わたしもうれしいから。
わたしがげんきだと、イリスもげんきになるんだ。
「じゃあわたし、げんきにしてる!」
わたしが、げんきにしててイリスがいつもみたいになってくれるなら、
わたしはずっとずっとげんきにしてる。
笑ってなきゃ。わたしも、イリスに笑っててほしいから。
「ごめんね、ミディ…ちょっとこのまま寝るわね」
「う、うん…おやすみ、イリス」
***
…どうしたんだろう。きゅうに、また、きもちわるくなったのかな。
静かにして、ねかせといてあげなきゃ。
でも…。
バタバタバタバタ
「ほいほーい、ちょーっとどいてねー。ってうわ! 危ないってば!」
「また割っちゃったの? お姉ちゃん、食器洗うときは気をつけてって言ってるじゃーん」
「…ねぇ、あやあや」
「あう? あたし、あやあやじゃないよ」
「じゃあ、あややん」
「あ、それカワイイかも」
「…あのね」
「何かなー?」
にこーっと笑ってこっちに顔を向けてきます。
「おねがいだから、静かにしてて?」
「…あ」
かたまりました。
「…あはははははは」
「笑いごとじゃないよぅ…」
「ご、ごめん…」
***
「はぁ。なるほど」
「だからね、どうすればいいのかなぁ…」
「うーん。お散歩に行こうか?」
あややんとわたしは、咲に「そうだん」してます。
ホントは、おしゃべりをやめてじぃっとしてればいいんだけど、
何かやってると、どうしても音は出ちゃうから。
「ふぇ? おさんぽ?」
「うん。静かになるし、ミディちゃんも気分転換になるよ」
「きぶん…てんかん?」
ちんぷんかんぷん。
「と、とにかく…行こうよ? 帰ってくる頃にはイリスさんもよくなってるよ」
「ホント?」
「うん、きっとね」
「そっかぁ…じゃあ行くっ」
「うん。行こ」
イリスは、ちゃんとおやすみしてなきゃよくならない。
だからって、ひとりにしたくないけど…。
お家にはカイがいるし、だいじょぶだよね。
「いってらっしゃ~い」
「ぶー。あややんも行くのっ」
「え、あ、あたしも?」
「そうだよぅ。みんないっしょがいいのっ」
「わ、分かったから引っ張らないでってば、わっ、ちょっと」
***
お外にでると、きもちいい風がふいていました。
もうそろそろ、あつくなってくるのかな。
このあついときのコトは「なつ」って言うんだって。
わたしは、「なつ」って好き。でも。
「あーづーいぃ~…」
あややんはあんまり好きじゃないみたい。
つないでるお手てが汗びっしょり。
「あややん、あついの?」
「も~~~~~………暑くて暑くてダメ! 脳みそ融けちゃうって」
「いくら何でもそんなに酷くないよ、彩ちゃん…」
咲はこまったような、笑ってるような顔。
「今日はまだ、風が気持ちいいじゃない?」
「そーだけどさー…」
「ねぇねぇ?」
「あう?」
「ん?」
わたしは、ちょっと気になるコトをきいてみました。
「あのねあのね、あの、カンカンカーンてなんの音?」
「かんかんかん?」
「うん、あっちから、さっきからずぅーっと聞こえてくるの」
きのうも、こんな音が聞こえた気がする。
「もしかしたら工房からじゃないかな?」
「きかいこうぼう?」
「うん、機械工房。ヴァイドさん、毎日手入れしてるみたいだからその音だと思う。
私たちもたまに手伝うんだよ」
「ふぇー」
「行ってみる?」
「いってみたい!」
キカイは、きのう、ちょこっと見ただけだから、もうちょっと見てみたい。
「え~…あたし手伝いヤだよー?」
「あややんも行くのっ」
「はいはい…トホホだよ」
***
「ヴァイドさーんっ」
こうぼうの中は、うすぐらくってすずしいです。
それにホコリっぽい…。
「あれ…ヴァイドさーん!」
「お? 咲。何してんだ?」
おくからヴァイドが歩いてきます。
「…って彩とお嬢ちゃんまで一緒か。何しに来たんだ?」
「おさんぽ!」
ヴァイドはあきれ顔。
「散歩でここに来るかっての。どうせ咲がここに入ろうとか言い出したんだろうけどな」
「は、はい…あの、これお弁当…」
「お、悪いな」
「好きでしてることですから、悪いだなんて…」
「お姉ちゃん…いつの間にお弁当なんか持ってきてたの…」
「あ、彩ちゃんとミディちゃんの分もあるよ。ほら」
どこに持ってたんだろう。
咲ってふしぎ。
「で、何だ」
ヴァイドが言います。
「弁当渡すためだけに来たんじゃないだろうに」
「はい、ミディちゃんが機械を見たいって…」
「見たいんなら別に勝手に見てていいぞ」
「ふぇ。いいの?」
「ああ、でも変なとこ触んなよ」
「はーい!」
***
きのうの、水色のキカイは…あった。
w、a…ter。う゛ぁーてる…って書いてある。
?
きのうみたいに動かないのかな。
おかしいな。
どうしたのかな?
きのうみたいに、ぺちぺちしてれば動くかな?
「ふぇ! つめたい…」
かたいのはそのままだったけど、きのうとちがって、つめたい。
「…動かないんじゃなくって、動けないの?」
こたえてくれない。
「さみしい?」
こたえない。
「わたしはさみしいよ…。せっかく、せっかくお友だちになれると思ったのに…」
さみしい。
「お友だちがいなきゃ、さみしいよ…動けなきゃ、きっとかなしいよ…。
ヴァーテルとおんなじキカイたちも、いっしょにお友だちになりたかったのに…」
うすぐらい。
「お願いだよぉ…動いてよぅ…」
ごん。
「いたっ」
なにかに頭をたたかれました。
上を見ると、ヴァーテルの手。
「…だれ? もしかして、ヴァーテルなの?」
手はそのまま、わたしの頭をぐりぐりしてきました。
「いたっ、いたいよ…やめてってば」
手がはなれていきます。
「…聞こえてるの?」
またぐりぐり。
「いたい…けど、なでてくれてるの?」
こんどは、手をわたしのまえにだしました。
「あくしゅ」
ヴァーテルの手はとっても大きくて、あくしゅはできませんでした。
でも、手にさわったら、またぐりぐりしてきたから…。
「お友だちになってくれるの?」
ぐりぐり。
「うれしいな。とってもありがとう♪」
きゅうに、ヴァーテルは動くのをやめました。
「あれ…?」
「ミディちゃーん。そろそろお昼ご飯にしよ…どしたの?」
「あ、咲っ! あのねあのねっ、わたしヴァーテルとお友だちになったの!」
「え…?」
「なでてもらったりしたんだよっ」
「…?」
「でもでも、また動かなくなっちゃったの…なんでかなぁ」
「きっと、ヴァーテルは照れ屋なんじゃないかな?」
てれやさん。
「えへへ…そっかぁ」
「行こ、ミディちゃん。お腹空いたでしょ?」
「うんっ」
***
ゆうがた。
「つ、疲れたぁ…だからあたしは工房なんて来たくなかったのにぃ」
「えへへ。でもおもしろかったよね」
わたしたちは、ヴァイドのお手伝いをしてたんです。
キカイをキレイにしてあげたり、おもたいものをはこんだり。
「お嬢ちゃん、ヴァーテルと仲良くなったんだって? 咲から聞いたぞ」
「おじょうちゃんじゃないもん、ミディだもん。
えっとねぇ、頭なでてもらったり、あくしゅしたの」
「そか。ヴァーテルも嬉しがってただろうな」
「うんっ! それに、もうさみしくないって」
「ほう?」
「こうぼうには、お友だちがいーっぱいいるからだって!」
「そっか。またそのうち遊んでやってくれ」
「はーいっ♪」
-第5枠 side-b 了-
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