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ミディの放浪日記~第6枠  -writing herself- (オリジナル)
作者:義歯

紹介メッセージ:
 小さな女の子が紡ぐ小さなファンタジー物語。

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第6枠 生まれて初めての




「いっただっきまぁーす♪」

晩飯時。
散歩から帰ってきたミディ達はすぐに飯にありついた。
…まさか4人分の飯を俺が作ることになるとは思いもしなかったが。
イリスめ、結局自分とミディの分しか作らねぇでやがる。

「おなかぺこぺこだよぅ~」

「散歩してきただけなのにか?」

「ううん、ヴァイドのお手伝いもしてたの」

「お手伝い?」

イリスが聞く。

「えっとえっと、キカイをキレイにしてあげてたの」

「そうなんだ。頑張ったね、ミディ」

「うんっ!」

ミディは、初めて会った時より…つってもたったの4日前だが、
よく笑って、よく喋るようになっている。
イリスがミディと出会った時は、ミディは1人で歩いていたって言ったっけな。
俺やイリスと一緒にいる事に慣れてきているのだろうか。

「ねぇねぇ。イリスもいいことあったんだよね?」

突然にミディが言う。

「え…どうして分かるの?」

「ふぇっ、だってだって、イリスあったかいんだもん」

「暖かい?」

「うん」

…よく分からん。

「イリスは、なにがあったの?」

料理を口に運びながらミディが聞く。
行儀悪いぞ、ミディ。

「ふふ。そのお料理ね、私が作ったのよ」

「えっ」

ミディの手がピタリと止まった。
…子供って正直だよな。

「そ、そぉなんだ?」

「うん、上手にできたんだから!」

「へ、へぇ~」

…イリスは浮かれてて気づいてないみたいだが、
ミディの笑顔が引きつっているのを俺は見逃さなかった。

「なんだか、どきどきしちゃうよぅ」

「そんなに期待されちゃうと困っちゃうかな? なんてね。くすっ」

(別の意味でドキドキしてるんだろうな、絶対)

「…えいっ!」

ぱくっ。もぐもぐもぐ…。

「どお? ミディ。美味しい?」

もぐもぐもぐもぐもぐ…。

「えへ」

にぱっ、と笑うミディ。

「おいしい!」

「ふふ、良かった。たくさん食べてね」

「うんっ、いっぱい食べるっ」

…ふう。付け焼き刃とは言え上手くいってよかったぜ。

「あ、急いで食べたらこぼしちゃうでしょ。ホラ…もう」

「えへへ…ごめんなさい」

そんな二人を見ていいたら不意にイリスがこちらを向いて微笑んだ。
上手くいってよかった、って所だろうか。
俺もそれに答えるようにして軽く笑顔を返す。
よかったな、喜んでもらえて、っと。


***




「ごちそーさまぁ♪」

晩飯を食い終えると外は暗闇。もうすっかり夜だ。

「カイ」

ヴァイドが話し掛けてくる。

「んあ?」

「これからどこ行くつもりなんだ、お前達?」

「ああ…そうだな、リットランドに行ってみようかと思ってる」

「な!?」

「えっ!?」

同時に叫ぶヴァイドとイリス。

「何だよ? 2人同時に叫んだりして」

「お前…正気か?」

「ああ、正気だぜ」

「だって、あそこは…リットランドは…。あなた言ってたじゃない」

「ああ…ヤバイよな、あそこは。でもそれは当時の話だぜ。
今は目立たないように、ただの観光客として居れば何の問題も無し、さ」

「まあ、そうかも知れねぇけど…」

「それにミディがいる。小さな子供を連れて何か仕出かそうって奴はいないだろ?」

「うーん…確かに、それはそうだけど…」

「な。決まり」

2人は揃って溜息をつく。

「…お前、こういう事考え付くのは全然変わってねぇんだな」

「ははっ。ま、俺は俺さ。何も変わりゃしねえって」

「それはそうだな。で、ベドウェンまでどうやって行くつもりだったんだ?」

あ。

「…考えてなかった」

「計画性の無さも全然変わってねぇな、カイ」

うるせーよ。

「…ねぇ、カイ、勝手に話を進められても私分かんないんだけど…」

「ああ、そうだな…ベドウェンってのはこの大陸の東端にある街さ。
大陸の南半分では唯一、リットランド行きの船がある所だ」

「港町?」

「ああ」

「それで…そのベドウェンまで、ここからどれくらいかかるの?」

「徒歩で2週間だ」

ヴァイドが横槍を入れてきた。

「え…2週間? カイ、それ本当?」

「ああ、本当だよ。前に試したからな」

あの頃は若かった。

「カイ、私達は別に歩きでもいいけど…ミディが」

「分かってるよ。だからどうするか考えてるんじゃねぇか…ヴァイド、何かいい方法ないか?」

「お前、交通手段ってモノを忘れてるんじゃないだろうな?」

…やっぱそう来たか。

「忘れてねぇよ…でもベドウェンの近辺までって言ったらバカ高いじゃねぇか」

ベドウェンに限らず、一般の客室列車はどれも運賃が高額なのだ。

「ねぇねぇっ」

話が聞こえていたのか、ミディが俺の服の袖を引っ張る。

「こうつうしゅだん、ってなーに?」

「列車だよ、列車」

「れっしゃ!? わーいわーいっ♪」

もう乗る気でいるし。

「…ミディ、本ッ当に残念だけど列車は乗れないかも知れないんだ」

「えぇーーーー!? なんでなんでなんでぇ!?」

「いやー…ちょっとな? 大人の事情ってやつでさ。
色々考えて頑張ってはみるけど…ダメだったら諦めてくれ」

「…うぅ、うん…わかった…」

う、落ち込んだ。

「何とかして乗れる方法ないだろうか…」

「ほれ、コレでも使えよ」

ヴァイドが手渡してきたのは、3枚の切符。
この町を出て、ベドウェン手前の駅まで走る列車の切符だった。

「いいのか? こんな高価なモン貰っちまって」

「よく読め」

ニヤッと笑ってヴァイドは言う。
言われた通りによく読んでみると、『貨物』の二文字が。

「…ちょっと待てヴァイド。貨物ってどういう事だ」

「安心しろ、管理してる奴は俺の知り合いだから。
カイがパトナから来たって聞いて、これは東に向かうと思ったから
3人分の乗務員としての乗車『権』を取っといたんだ。
それに貨物は客車と違って終点まで止まらないからな。
徒歩で2週間の所を…そうだな、3~4日もあれば着けるんじゃねぇか?」

確かに早い。
通常の客車だったら途中停車なども含めて7日はかかる筈だ。

「感謝しろよ?」

ニヤニヤ笑って続けるヴァイド。
…根はいい奴なんだが、この性格はなんとかならないだろうか。

「へいへい…感謝してるよ」

「んじゃお嬢様を喜ばしてやれよ」

そうだな。ミディにも教えておこう。

「ミディ」

「なぁに?」

「列車に乗れることになったぞ」

「ふぇっ、ホント!?」

目を輝かせるミディ。

「ああ、喜んでいいぞー」

「うんっ! よろこぶっ!」

なんとまぁ…真っ正直な答えで。

「ねぇねぇっ、いつのるのっ?」

「いつにするかね…」

「はやくのりたいなっ♪」

「んじゃ、明日はどうだミディ?」

「うんっ」

「イリスもそれでいいか?」

「ええ。明日にはここを発つのね」

「ああ、そうなるんだな…」

…なんか、あっという間なのか長かったのか…よく分からん2日間だったな。


***





-翌朝、駅のホーム-

俺達3人は出発する準備も整って、あとは列車に乗り込むだけ。
珍しくイリスの寝起きもよかったので、割と早い時間に駅に着くことも出来たしな。

「じゃー、達者でやれよカイ」

「おう。お前もな」

ありがちな別れの挨拶。
だがこれ以外に言うことは無い。

「…随分さっぱりしてるのね。1年ぶりに会って、もう別れるっていうのに」

イリスが話し掛けてきた。

「そんなモンだろ。1年だろうが10年だろうが、変わんねぇと思うぜ」

「ふー…ん、そういうものなの」

「男同士がベタベタしてたって気持ち悪ぃだけじゃねぇか」

「う、うーん…そういう事じゃないんだけど…。もう…気持ち悪いの想像しちゃったじゃない」

「ところでミディは? まだ双子に捕まってんのか?」

「多分…あ、来た来た」

「おまたせっ♪」

にぱっ、と笑いながらイリスに跳びつくミディ。
何かぬいぐるみらしき物を抱えている。

「…ミディ、何だそれ?」

「うさぎさんっ」

「そうじゃなくて、何でそれ持ってるんだ?」

「えへへ…咲とあややんがくれたの」

あややんって誰やねん…って咲とセットになるってことは彩か。

「ねぇねぇっ、早くのろうよぅ?」

「ん? ああ、そーすっか」

ミディの好奇心は全て列車に向いているらしい。
俺達はそのまま列車に乗り込む。
列車はすぐに発車した…。


***





-2日後-

「かたんことーん、かたんことーん」

窓から外を眺めながら、ずっと同じ事を喋っているミディ。
…そりゃ小さい子供に数日間じっとしてろって言う方が無理だろう。

(ねえ、カイ)

イリスがひそひそ声で話し掛けてくる。

(ん?)

(今日だったわよね、確か?)

(ん、あ~…ああ。今日だな)

「なにが?」

いきなり出てくるミディ。
あんまり暇なもんで、少しでも話をしていると寄ってくる。

「うん。私達からミディにプレゼントあげようって」

「ふぇ? ぷれぜんと?」

首を傾げる。

「ああ。俺とイリスミディが会って今日でちょうど1週間だしな」

「はい、ミディ」

「ふぇっ」

イリスがミディに小さな包みを渡すと、ミディは首を傾げながらもそれを破いて開けた。

「ふぇ~…ちっちゃなほん」

中から出てきたのは一冊の本…というか少し大きめな手帳といったような物。

「でもでも、なんにも書いてないよ?」

「それはね、日記帳っていうの」

「にっき、ちょう?」

ミディはぽかーんと口を開けてイリスと日記帳を交互に見ている。

「うん。その日にあった事とか、楽しかったこととか…それを書いていくの」

「そぉなんだぁ」

「ミディが書くのよ?」

「ふぇ!? わたしが書くの?」

目を見開いて…こりゃ本気で驚いてたらしいな。

「…ねぇねぇ」

「?」

「書いてみてもいい?」

俺とイリスは顔を見合わせた。
そして同時に言う。

「もちろん。」

「みちゃダメだよっ」

「見ねぇから安心して書けって」

「うんっ!」

離れた所に陣取って、ミディは日記を書き始めた。
何を書こうか迷っているんだろう。その時その時を思い出してか、
笑ったり、困ってみたり、表情はころころ変わっていた。
…ついでに言うと書いてる内容まで分かってしまう。

「えっとぉ、イリスと、カイが~…」

…ミディって物を書くとき声に出ちまうのな。

「とっても、うれし…かった。えへへ…」

「喜んでくれたみたいね…よかったわ」

「ああ」

ミディの…放浪少女の日記か。

「…ミディの、放浪日記ってか…」

「? 何それ?」

「なんでもねぇよっ」

「?」

外には列車が走る音と…ミディの呟く声だけが聞こえている。
終点までの距離は確実に近くなっていた。


-第6枠 了-

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