ミディの放浪日記~閑話2 休日の過ごし方 -How would you like?-
(オリジナル)
作者:義歯
紹介メッセージ:
小さな女の子が紡ぐ小さなファンタジー物語。
前回<ミディの放浪日記リスト>次回
閑話2 休日の過ごし方
目が覚めた。
外では小鳥が飛びまわり、家の中は静かだ…。
俺は時間と、日付を確認した。
今日は休日だ…整備も少しの間はしなくていいし、気が楽だ。
何で整備だって? …俺が誰だか分かってるよな?
ヴァイドだよ、カイじゃねーぞ。
分からなかったって…泣くぞこんにゃろう・゚・(ノД`)・゚・
まぁいいさ。
今日は休日、こんな朝早くに起きる必要もあるまい。
二度寝、二度寝っと…。
***
ぱたぱたぱたぱた…。
「誰だよ、うるせーなぁ…」
ばたばたばたばた…。
「気にしないで寝ろ、寝るんだ俺」
どたどたどたどた…。
「…だんだん足音がデカくなってるような…ええいっ、気にしたら負けだっ」
どどどどどどどどどどどどどどどどど…。
…ぴたっ。
轟音が部屋の前で止む。そして。
ガチャッ!
「朝ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「ぐあーーーーーーーーーーーーっっ」
そして耳をつんざく高い声。
断言しよう。これは今までで最低最悪の目覚めだ。
「やっ、おそよう♪」
「てめ…この彩! 何がおそようだッ」
「なんだよー。遅くまで寝てる方が悪いんだよ。起こされないうちに起きてくればいい話じゃん」
くそ生意気な小娘め…何でこんなん拾ったんだ俺は。
「…。」
俺は黙って彩に近づいていく。
「何さ。何か言いたい事でもあんの?」
「いーや、全くねぇ。(#´ー`)」
ズゴッ!
俺はすぐさま拳を振り下ろした。
「いたぁいー! なんであたしばっかりこうやってボコボコボコボコ叩くのー!?」
「叩きやすい高さに立ってるからだ」
「そんなの理由になんない!!」
「十分だろ。」
「なーりーまーせーんー(・∀・)」←嫌味ったらしく語尾を上げて
…こいつ、いつかシメる。
「いいもんいいもん、ご飯食べさせたげないから」
反抗期か、彩。
「半端な時間に起こされたから腹減ってねぇ。片しといてくれ」
「ふっふっふー。そう来ると思って!」
…何だ、今度は何をした。
「もう片付けておいたのだ!」
えへんっ、と無い胸を張る彩。
…これってどっちにしろ飯は食えなかったって事だよな?
「さぁーて、たまの休日どう過ごすかなあ。」
そう言って居間に下りる。
勿論、勝手に朝飯を片付けた礼はしっかりとしてから。
「いーたーいー!! バカになったらどうするのぉ!?」
「安心しろ、もう十分バカだ。」
「ひーどーいーよおぉ!!」
***
居間に入ると咲が新聞と睨み合っていた。
「…何やってんだ咲」
「あ、ヴァイドさん。おはようございますっ」
「ああ、おはよう…んで何してんの」
「近所の小売店のチラシを集めてるんですよ」
…家事全般やってる所為ですっかり主婦っぽくなっちまってる16歳ってか。
近所の井戸端会議にも普通に参加できてるし。
…将来が不安だ。(;;´Д`)
「ほら見てくださいこれ!」
「んー?」
指差された部分を見てみた。
「こっちのお店、このお店より卵が安いんです。同じ日に同じ所から仕入れてるのに。
こう言うのあると、献立も考えるの結構大変だったりすることもあるんですよねっ。
だからヴァイドさんも、協力してくださいね! えと、今日のお昼とか何が食べたいですか?」
咲はにこにこしてこちらを見ている。
どうやら俺の反応を待っているようだ。
「…すまん、早口で聞き取れなかった」
普段は大人しくておっとりしている咲だが家事…特に料理の事になると別人になる。
…そうなると、彩のような早口になって…いや、彩より早いか。
で、興奮して早口になるもんだから、何か聞かれても全く反応できない。
ちなみに先程の3行は約5秒で全て喋りきっていた。
「あ…ごめんなさい、またやっちゃいました」
「気にするな。誰だって興奮すれば早口になるもんだ」
ただ限度ってものがあるが。
「はい…。ええっと、お昼ご飯どうしましょうかって聞いたんですけど…」
「昼飯なぁ…残ってる材料でパパッと何か出来ないか?」
「えっと、保存庫見てきたんですけど」
保存庫。要は食糧保存する倉庫だ。
石造りだし、地下にあるし。そう簡単には腐ってくれない。
「野菜炒めならできますよ」
「んじゃそれで良いんじゃねぇの」
「あの…で、でも、お野菜だけの野菜炒めと、あとアレ…なんです…けど…」
露骨に困った表情を見せた咲。
「…咲。」
「ハ、ハイっ」
一瞬でも言い淀んだって事はアレがほぼ確実にってことか。
「アレが…入ることになりそうなのか」
「は、はい…そうなんです。お肉なしじゃ味ごまかせませんよ…どうしましょう」
「…いや、いい。もう作っちまえ…腹に入れば皆同じよ」
「そ、そうですか…じゃあ作っちゃいますよ?」
「ああ…ひと思いにやってくれ。」
咲がキッチンに向かっていき、俺は一人に。
そこで俺は考えていた。
アレ…27歳にもなる俺が唯一嫌いな食い物のこと…。
「緑色のアレが…」
「緑色のアレって何?」
真後ろに立っていたのは彩。
「…もしかしてヴァイドって好き嫌いあったの?(・∀・)ニヤニヤ」
くッ。
「緑色のアレってなーんだろうなー、あっははー」
「お前だって好き嫌いの一つや二つあるだろうが?」
「あたし? あたしは無いよ。何でも食べる」
偉いなオイ。
「緑色のアレ…ズッキーニ!」
「またレアな食材出してきやがったな。」
「じゃあ熟す前のカボチャ!」
「それは誰でも食わんだろうが」
「じゃ青汁?」
「何だそれ」
青い汁なんだから緑色じゃないだろうに。
「えぇ~~~、青汁知らないの? ふぅ、無学って嫌よねぇ奥さん」
俺は無言で拳を振り上げた。
「あうっ、ぴ、ぴーんち!」
「青汁っていうのは、健康食品のひとつなんですよ」
彩のピンチを救ったのは咲。
双子だし通じるものがあったのかも知れない。
「ハイ、野菜炒めできましたよー」
「あ!」
いきなり大声を上げる彩。いつものことだが。
「豆電球っ!」
…は?
「これ、何か閃いたって意味らしいんです」
咲が耳打ちして教えてくれる。
…しかし古典的な。
「んーで、何が閃いたんだ? そこのおてんば娘」
「べーつーにー?(・∀・)ニヤニヤ」
咲が居なかったらぶん殴ってる所だ。
「いただきまーす。うくくくく…」
「あ、彩ちゃん…その、怖いからやめて?」
「キモいからやめろ」
「へっへっへ。食べ終わる頃には分かっちゃうんだもんね」
「…何がだよ」
「ずばりっ、あんたの嫌いなものっ!」
何だ、結局それだったのか。
「彩ちゃん…たぶん、分かんないと思うよ?」
「えー! 何でぇ?」
「ヴァイドさん、それが嫌いなのはホントだけど、残したこともないし…」
「ちぇー、つまんないのー(`ε´)」
「へいへい。もう勝手にやってろ」
「あーもう。折角ヴァイドの弱み握れたと思ったのにっ!」
…アホかこいつは。
「彩ちゃん…もしかしていつもそんなコト考えてたりするの?」
「あったり前じゃん」
いや当たり前にするな。
「ダメよ、私達はお世話になってるんだから」
「え~…でもさぁ~」
「だめ。もう変なこととかしないの。いい?」
「は、はーい…」
…やけに素直だな。
「反抗期じゃなかったのか、彩」
「るさいなぁ。お姉ちゃん怒らしたらご飯作ってもらえなくなるんだよう」
「あ、なるほどな…」
***
-翌日-
むう…もう休日は終わりか。
コレと言って特に何も無い日だったな…。
まぁ家でゴロゴロできたから良しってことにしとくか、うん。
「ってわけでギリギリまでもう一眠り…」
ぱたぱたぱたぱた。
「…来たな。」
ばたばたばたばた…どたどたどたどた。
「ってーかもう少し静かに歩けないのかアイツは?」
どどどどどどどどどどどどどどど…。
ぴたっ、と轟音が部屋の前で止む。
ガチャッ!
「あs…」
「朝あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「うっきゃーっ!?」
いきなりの反撃にビビったらしく、その場にすっこける彩。
「ふははははは。反撃成功。」
「な、いきなり何するんだよう!」
「お前と同じ事しただけだ」
半ベソかいて反論する彩。
「仕返しするなんて大人気ないんだぞっ!」
「何とでも言え」
「く…子供かー!」
「子供で結構」
「も…もう来ねえよヽ(`Д´)ノ ウワァァァン!」
∑(;;´Д`)
「お姉ちゃんに言いつけてやるんだからぁー!!」
げっ。
「待てっ、待て待て待てっ!」
「じゃあー、あたしの言うこと聞く?」
「冗談じゃない。」
「おねーちゃーん」
部屋を出て行こうとする彩。
これで咲が怒って飯抜きなんて言われたらとんでもなく辛い。
「だから待てっつーのっ!」
「やーですよー。へへーん」
ガチャッ。
部屋のドアが閉まる音がした。
さっき彩は開けっ放しにしてたと思ったが…とすると。
「あ」
そこに立っていたのは寝巻き姿の咲。
…だよな、コレ。寝癖で頭爆発してるけど。
「聞いてよお姉ちゃん、ヴァイドったらさーぁ」
飯抜きを逃れようと何とか反論する俺。
「違う、それは彩のヤツがだな…」
「違わないよ、アンタが悪いんじゃんっ」
「悪いのはお前だろうがっ」
「あたしじゃないって言ってr…」
「うるさいっ!」
びく。
「へ…」
「あ、あう…?」
言葉を失う俺達2人。
「2人ともっ! 今何時だと思ってるんですかっ!?」
…咲がキレた。
「時計見てください! まだ4時前なんですよっ!?」
…あ、ホントだ。
「早く起きればいいってものじゃないんですよっ! 朝から騒いでるとご近所迷惑にもなるし!
それにこんなに早く起きたってすることないじゃないですか!」
「そ…そりゃそうだ」
「分かってるんだったらもう少し寝かしてください、まったくもう…ぶつぶつ」
もそもそ…。
「すー…すー…」
喋った勢いで俺のベッドに潜り込んで再び寝始めた咲。
「…。」
「……。」
そして言葉を失った俺達。
「あのさー、ヴァイドー…」
「…あ、ああ?」
「…たまにお姉ちゃんの慰安日作ってあげようよ。」
「そーだな…是非そうしよう。」
「うん。」
教訓。朝、咲を起こしてはいけない…絶対に。
-閑話2 了-
前回<ミディの放浪日記リスト>次回