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ミディの放浪日記~第7枠 見守るは太陽そして月1 -the moon- (オリジナル)
作者:義歯

紹介メッセージ:
 小さな女の子が紡ぐ小さなファンタジー物語。

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第7枠 見守るは太陽そして月-1




「…あぢぃ…」

照りつける太陽。今は夏真っ盛りだ。
…数日前に列車に乗り込んだ俺達。
何事も無く目的の駅に到着することができた。
そこからベドウェンまでの距離は、徒歩で約6時間かかると駅員は言っていた。
6時間程度なら、結構長い距離も歩いたこともあるミディだから心配はないだろう。
そう思ってすぐに出発した…が甘かった。

「ふう…」

「うぅ~~…あつぅぃ~」

…照りつける太陽。そして照りつけられ渇ききった俺達。
ベドウェンまでは大きな森も林もない。
街道としてある程度の整備はされているがあるのはただ、道、のみである。
おかげで風は心地よいのだが、木陰が数えるほどしかない。
この日照りでは、はっきり言って辛い。

「おーい…2人とも大丈夫か~…?」

「生きてるわよ~…」

「だいじょびぅ~」

はあっ、ミディの方もう言葉になってないじゃねぇかっ。

「どうする、少し休憩するか?」

「ふぇ~…きぅ、けー?」

頬を赤らめてこちらを見上げてくるミディ。
…いや、違うか。これ火照ってるのか?

「ミディ…熱くねぇか? 身体とか」

「ぼぅぼぅする」

熱くて大変ってことか。

「ねえ、カイ…もう結構歩いたんだし、ここで休憩するよりベドウェンまで急いだ方がよくない?」

イリスの提案。言われればそれが最善かもしれない。
出発して間もないとかだったら、一度駅まで戻って夕方に再出発って方法もあっただろうが、
今、俺達がいる位置は明らかにベドウェンに近いのだ。

「そうだな…そうしよう。もう少し頑張れミディ」

「うん…。でもでも、ふらふらするの…」

「手、繋いで歩きましょ。ねっ?」

「ふぇ…うん」

イリスと並んで歩くミディを少し見ていたが…あのふらつき方は尋常じゃないな。
あっちにふらふら、こっちにふらふら…。
なんかイリスに寄りかかって歩いてるような感じだ。

「…さっさと町で休ませた方がよさそうだな」

やはり暑さの所為か、イリスの顔色もおかしい。
俺は少しばかり歩を早めてベドウェンの港町を目指すことにした。


***




-16時頃-

ベドウェンの港町は、いつでも賑わっていて活気のある町だ。
だが今はそれどころじゃない…俺は真っ直ぐに宿に向かって先頭を歩いていった。

俺は主人に言って二部屋取ることにした。
ここの宿は安い。宿賃を高くしても客はより安い方を選んでそちらを選んで泊まるからだ。
手持ちの金を考えると3週間くらいは余裕で泊まれる。
…そこまで泊まるわけはないんだがな。

「部屋は2階か?」

主人は無言でこっくりと頷く。
無言と言うか元々無口な人間のようだ。
…よくこの宿続いたな。

「分かった。じゃ、厄介になる」

ミディはイリスに手を引かれている。
暑い中を歩いて来て疲れきってしまったのだろうか、元気な声は聞こえてこない。

「私達の部屋は手前? 奥?」

「奥の方が広いから多分向こうだろ。…イリスお前、大丈夫なのか?」

歩いてる最中は顔色があまり良くなかった。

「うん、もう平気よ。日陰に入って外からの風浴びてるうちによくなったみたい」

「そか。ならよかった」

「ミディ、部屋に入って休みましょ……ミディ?」

「ふぇ…なに…イリス」

「おい?」

俺はミディを見てみた。
顔が赤い…ぼけっとしてて焦点も合ってないように見える。

「ミディ、大丈夫?」

「ふぇ…」

ミディはふらふらと部屋に向かっていく。

「…本当に大丈夫なのかよ?」

「さっきまでは寄りかかってくるようにして歩いてたけど…」

ミディがドアノブに手をかけようとした。
その時。

「…ふ?」

くらっ…。

「ふぇっ…」

どさっ…。
その場に、ミディは倒れてしまった。

『ミディ!?』

俺とイリスはすぐにミディのもとに駆け寄った。

「おいっ、ミディッ!」

「…ふぇ、あたまぶつけた…いたぁぃ…」

意識はあるようだ…少し安心した。

「ミディ、ミディッ、しっかりして!」

「……あついぃ…」

そのままミディは眠ってしまった。
熱い、か…。やっぱ歩いてくる最中に熱にやられたらしいな。

「イリス、部屋で休ませといてやれ」

「…あなたは?」

「俺もあとで様子を見にいくから」

ミディが倒れたのを見てか、イリスも半分パニック状態に陥ってるような感じがする。
…少し、静かにしておいて気を落ち着かせた方がいいだろう。

「分かった…でも…でも、早くしてね…」

「ああ。分かってるよ」

分かってるさ。大急ぎで戻ってくるつもりだからな…。


***





-20分後-

「どうだ? ミディは…」

「カイ!」

部屋に入った途端にイリスに掴みかかられた。

「何やってたのよっ! 大変なんだからっ、ミディはまだ起きないしっ…」

掴みかかったまま、できる限り声を殺して叫ぶイリス。

「まだ起きてないのか…」

「カイは来ないし…心細かったんだからっ…!」

掴みかかった手に力は無く、下を向いてふるふると肩を震わせていた。

「…悪かったよ、勝手に出かけたりして」

「出かけ…?」

「ああ、ちょっと必要な物を買いに行ってたんだ…っと。
それよりイリス、窓くらい開けてやれよ。風入ってくるぜ」

「あ…うん」

窓を全開にすると、海からの風が部屋を吹き抜ける。
気持ちいい…と言うか何とも言えないような感じの潮風の香りが部屋の中に広がった。

「いい風…」

「…うにぃ?」

窓を開けて間もなく、ミディは目を覚ました。
顔はまだ赤いが、目はもう虚ろではなく、きちんと前が見えているようだ。

「ミディ、気分はどうだ?」

「きぶん?」

「今はどんな感じ? 暑い? 涼しい?」

「あっつぃ…でもすずしぃ」

「それじゃどっちか分かんないぞ」

「ふぇ、えとえと…」

途端に困ったような顔をする。
調子が戻ってきているのか、無理に振る舞っている様子は見られなかった。

「んーと、んーと…すずしぃ…かな?」

きゅうぅぅぅ~。

「ふぇっ」

ミディの腹の虫が大合唱した音だ。

「お腹すいたの?」

「ちょぴっと」

「どうしよう…カイ」

まだ治りきっていない人間に普通に飯を食わせるのは俺も反対だ。

「ほい、ミディ。」

「ふぇ?」

ぽけっとするミディの手に、1個の果物が置かれる。
さっき外に行って買ってきたものだ。

「りんご。」

「そ、ミディのリンゴ」

「つめたい」

「ああ。きっと冷たくて美味いから食ってみろよ」

「うん」

がぶり。

「…誰もかぶりつけとは言ってない」

「うぐ?」

「そうよ、ミディ。お行儀悪いわよ」

「ふぇ…ごめんなさぃ」

「食べやすいように切ってあげるわね」

「はぁい」

かぶりついて歯形のついたリンゴをイリスに手渡すミディ。
なんだか嬉しそうだ。

「ねぇねぇカイっ」

「ん?」

「あのねあのねっ、イリスに切ってもらうといろんな形になるんだよっ」

「そうだな。イリス上手だもんな」

「うん!」

「はい、ミディ。これなーんだ?」

完成品がイリスからミディの手に渡される。

「ふぇっ。えっと、えっと…うさぎさん!」

「当たり~。よく分かったわね」

「えらい?」

「うん、偉い偉い」

「えへへ…」


***





-夜-

「くぅ…すぅ…」

「…静かな寝息ね」

ミディが寝ているベッドの隣。
俺とイリスはそれに腰掛けて、ずっとミディを見ていた。

「そうだな…」

よっぽど疲れていたんだろうか。
いつもなら、寝て暫くするとトイレだの何だので目が覚めるんだが、
今日はその気配が全く無い。

「ずっと歩き通しだったから…ね」

「まぁ…この先ちょっとは楽になるさ。港町まで来れたんだから」

「船に乗るのよね? リットランド行きの…」

「ああ。」

「…とうとう大陸から離れちゃうんだ?」

「ん?」

何故だか、不安そうな表情のイリス。

「…何でだ?」

「ミディの探してるものがこの大陸にあるかもしれないのよ?
それなのにリットランドに渡っちゃうの?」

「心配するなって」

俺は横にいるイリスに軽く笑いかけた。

「リットランドの島自体は小さいし、行くのにそんな時間かかる訳じゃねぇ。
ただ、どこで何がきっかけになるか分からないから行くだけさ」

「…そう、よかった…」

安堵の表情を浮かべる。

「…なんだよ、その『よかった…』ってのは。
まるで俺が何も考えないで行き先決めてるみたいだな?」

「違ったの?」

「…。」

「くすっ…冗談に決まってるでしょ?」

俺の恨めしげな視線をかわすかのような笑顔で返す。

「だったらいいんだがね」

「あー、その言い方は信用してないわね?」

さっきの言葉を返すように、笑って返す。

「冗談に決まってるだろ?」

「くす…。ミディが認めるわけだわ、あなたのこと。」

認める…ねぇ。

「女の子に好かれるのは悪い気はしないけどな」

「言うと思った」

こちらに笑顔を向けて話してくれるイリス。
何だかんだ言っても、コイツも最初会った時とは全然違う。
最初会った時はもっと仏頂面で何考えてるんだか分かんねぇし、
笑顔でいるのはミディの前だけって感じで、俺と話すときはなんでかイライラしてるように思えた。

「何だよ。俺は純情なんだぜ?」

「うそ。ぜーったい嘘でしょ?」

「嘘なもんか。あの時やあの時やあの時とか…」

もぞもぞ。

「ふにゅにゅ…くぅ」

…おっと。ミディが寝てたのすっかり忘れて話してたぜ。

「ミディを起こしちまうのもアレだし、俺も部屋戻って寝るわ」

俺は座っていたベッドから立ち上がり、部屋を出ようとドアノブに手をかける。

「また、頑張りましょ?」

不意にイリスから声がかかる。
俺は立ち止まって振り向いた。

「ん?」

「ミディの探しもの、見つけてあげましょう」

「はは…。志を同じくする者同士、誓いの握手でもするか?」

イリスに歩み寄って、俺はすっと手を差し出した。

「くす…そうね。」

イリスも右手を出して応えてくれる。

「明日からもよろしくな」

「ミディに負けないように頑張らなきゃね。」

「うにゅ…がんばる…ぅ。くぅ、すぅ…」

思わず目を合わせる俺とイリス。
そしてどちらからとも無く小さくふき出した。

「はは…全くらしい寝言だな」

「くすくす…ホントね」

「じゃ、寝るわ」

手を離して、今度こそドアから廊下へ出る。

「おやすみなさい。」

「ああ、お休み」


***





部屋に戻った俺。

イリスに言われたこと…

『ミディの探してるものがこの大陸にあるかもしれないのよ?』

ああ、分かってる。分かってるさ。
ミディとイリス、そして俺が出会ったのがこの大陸なんだから。
どちらかと言うとリットランドで探しものが見つかる可能性の方が低いだろう。

この先は。

(リットランドへ行って…それから…)

(…。)

(ミディの探してるものが分かんねぇと…どうしようもないんじゃねぇのか?)

でも…無理に聞き出すことはしたくない。

「やっぱ…ミディ次第、かな…」


-第7枠 了-

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