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ミディの放浪日記~第8枠 見守るは太陽そして月2 -the sun- (オリジナル)
作者:義歯

紹介メッセージ:
 小さな女の子が紡ぐ小さなファンタジー物語。

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第8枠 見守るは太陽そして月-2




…窓の外から喧騒が聞こえる。
昨夜はいつの間にか寝てしまっていたらしい。

「朝、か…」

ベッドに張り付いてしまった身体を無理矢理に剥がし、部屋を出る。
ミディの様子が気になった俺は、部屋を出てそのまま奥の部屋へと向かった。

「…あ、カイ…。おはよう。」

部屋を出たところの廊下には目の下に隈を作ったイリスがいた。

「…お前、ちゃんと寝たのか?」

軽く首を振る。

「何で」

「ミディの看病してて…あんまり寝てないの」

…看病?

「まだ具合悪いのか」

「そうみたい…。昨夜あれから、寝汗が凄くって…」

もう一日休ませといた方がいいか…。
もしかしたら今日はもうはしゃぎ回れるかと思ったが。

「そか…。じゃあ今日は俺一人で行ってくる」

「え…行ってくるって、どこに?」

「船の手配だよ。海を渡るんだ、船が無いとどうしようもないだろ?」

「あ、そっか。そうよね」

「んで、イリスはミディについててくれ。出来るだけ急いで戻ってくるから」

「急いで戻ってくるって…手配なんてそう簡単にできるものなの?」

ここの港にはヤツが居たはずだ。
船乗りとしての腕は一級だが性格と素行に難のある奴が。

「ああ、居る場所なんて決まってるからな」

「そう…それなら安心ね」

「だから昼前には戻れると思う」

「うん、分かったわ。行ってらっしゃい、カイ」


***




「今日も、いい天気ね…」

部屋にある窓からは海が見える。
丁度この窓は港が見える方向にあるようだ。

「海、か。そう言えば、もう何年も来てなかったわね」

海…。
この子は…ミディは。ミディは、海を知っているのだろうか?
知っているのだとすれば、一度でも、海の見える場所に居たことがあると言うこと。
知らないのだとすれば、少なくとも物心ついてからはずっと内陸で暮らしていたと言うことになる。

それだけでも分かれば、リットランドまで渡る必要はない。
…でも、何を探しているのか分からないこの子。
私もカイも、ただその「何か」を探す旅に同行しているのだが。
ミディは、まだその「何か」が何であるか話してくれない。
本人が言うには内緒。秘密。唯一つ話してくれたことは、大切なもの…だということ。

いや。

話してくれたんじゃない。
あれは私がそう聞いたからそう答えただけのことだった。

「…こうして考えてみると。」

私は何も分かってない。
ミディは何も教えてくれない。
…だからミディが話してくれるか、探しものが何であるか分かるきっかけ…。
それが現れるまでは私も、カイも、何もできない。

「早く…あなたの大切なもの、見つけてあげたいのにな…」

そっと、ミディの髪を撫でる。

「う…にゅ~…」

…ミディは、よく眠っている。
ふと時計を見ると10時を既に回っていた。
昨夜、この子が寝付いたのが11時頃…。丸半日寝ていることになる。
今まで長距離をずっと歩いてきた疲れが一気に出たのだろうか。

「くぅー…すぴー…。…うーっ」

暑くて寝苦しいのか、あっちこっちに転がっては布団を蹴飛ばすミディ。

「そんなんじゃ風邪引いちゃうわよ…もう」

その度に布団をかけなおしてやる私。

「すぅー…くぅー…」

ミディって結構、寝相悪かったのね…。
隣りで一緒に寝てるときは凄い静かに寝てるのに。

「…あ!」


***





「うに…ふあぁ…ぁふ」

…あれぇ。

「どこだろ…ここ…」

まどがあいてる。
風がつよい。
お外はてんきがいい。
…でも、見たことないところ。

「…ふぇ…。ねぇイリス、おしっこ…」

あれ?

「イリス…?」

おへやにはだれもいない。
イリスも、カイもいない。
いるのは、うさぎさんのぬいぐるみ。

「ねぇ、うさぎさん。どうしてイリスはいないのかな?」

わたしは、うさぎさんをぎゅってして、話しかけました。

「いつも、わたしよりおねぼうなのに、もうおはようしちゃったのかな?」

…カイは?

「カイもいないね。どうしてなのかな」

「ねぇ、うさぎさん。どうしてなのかな?」

そのとき。
びゅうっ、て強い風がふきました。

「わっ」

うさぎさんが飛ばされて、ベッドからぽとりとおちた。

「あ…うさぎさん…」

…うごかない。

「…あ…」

うごかなかったお友だち。

ヴァーテル。

「あ…あ、ぁ…」

つめたい。

うすぐらい。

「や…」

うごけない。

「や…あ」

だれもいない。

「やだ…ぁ、やだ…!」

…ひとり、ぽっち。

「やだ…やだよ…」

いやだ。
いやだいやだいやだいやだ。

もう明るいのに。
暗いのはいやだ。

もうあったかいのに。
つめたいのはいやだ。

たのしいのに。
かなしいのはいやだ。

笑っていられるのに。
泣くのなんていやだ。

もう、もう。

「…だ、やだぁっ…!」


***





宿に帰る。
用事だけサッサと済ませてきた所為か、11時前に着くことが出来た。

「…あれ」

あれって…イリスじゃねぇか。
なんで宿の入口なんかに居るんだよ。

「あ…おかえりなさい、カイ。船どうだったの?」

向こうも俺に気づいて、話し掛けてきた。

「ああ、OKだ。天気も暫くいいらしいし、いつでも出港できるらしい。
発つタイミングはこっちが決めていいそうだ」

「これでリットランドに行けるのね」

「ああ」

列車の旅の次は船旅か。
…交通手段使いまくりだな。しかも無料で。

「んで、イリス」

俺は核心をついてみた。

「? なに?」

「どうしてここにいる? ミディはどうした」

「あ、え、えと…ちょ、ちょっと、ね…」

ちらちら目を逸らしながらもじもじ答える。

「…。」

「…な、なによぅ」

「なんだ、トイレか」

「…わ、分かってるんだったら言わないでよ、もう!」

ふいっ、と背を向けて自分の部屋へと歩き出すイリス。
俺もすぐその後に続いた。

部屋がある2階への階段を上ってゆく。

「…でね、やっぱりミディ、疲れてるんじゃないかって思って…」

「ああ、だよな…。炎天下を数時間歩きっぱなしだったんだし」

「うん、それに今まで歩いてきてるのだって疲れてないはずな…」

『うあぁぁぁぁん!!』

「ない…カイ! 今の…!」

イリスの表情が緊迫する。
俺も同様な顔をしていただろう。

「言ってる場合かっ!」

ミディの声だ。

「ミディッ!!」

俺とイリスは大急ぎで部屋へと駆け込む。

「ぐすっ、ふぇっ…ふぇぇっ…」

部屋の中にはベッドで一人泣きじゃくっているミディがいた。
イリスは駆け寄り、ミディを抱きかかえた。

「ふぇっ…ぐすっ、イリス…?」

「うん…イリスよ。ちゃんとここに居るわ」

「カイは…カイはっ…?」

俺もミディの傍に寄って声を掛けた。

「ここにいるぞ、ミディ」

「うえっ、ひぐっ…ひっく」

声を掛けた途端に、ミディはまた泣きはじめた。

「よかったようっ、ちゃんといてよかったよぅっ…」

「うん、私もカイもちゃんと、ここに居るから…」

「さみしかったよぅ…くるしかったよ、かなしかったよぅ…」

「ごめんね…ごめんね、ミディ…」

ミディをぎゅっと抱きしめるイリス。

「…もう…もう、ひとりはやだよぉ…」

…俺はハッとした。
今まで2人と旅をしてきて、ミディの事も、旅の目的も何も知らない。
いずれ、分かるものだと。
自然と答えが出るまで時間がかかると思っていた。

「もう大丈夫だ…傍にいるからな」

それは、変わらない。

でも。

それを抱えているのはミディ一人。
…無理だったんだ。この小さい身体に全てを背負うのは無理だったんだ。

「うん…傍にいるから。泣かなくってもいいのよ、ミディ…」

だから、私が、私達が支えてあげなければいけない。

「ひくっ……うん」

俺には―私には。
ミディの探しているものが何なのか、分からない。

「……えへへ…イリス、やさしー…あったかぃ…」

でも。

「ぐすっ…」

ミディの笑顔を失わせない為に。
…笑顔を忘れないようにする為に。

「イリス、今日は一緒に寝てやれ」

「うん…そのつもり」

ミディが、ミディであるために。
俺は―私は。この小さな子を支えていこう。

「ミディ、外見てみろ。ほら…アレだ」

「あれ…なぁに?」

「船っていうんだ。今度はあれに乗るんだぞ」

「ふぇ…」

「ミディは、いつ乗りたい? 言ってごらん?」

「…あした…ぐすっ」

「よし、明日、船に乗ろうな」

「うん」

「一緒に、ね。」

「うんっ!」

支えてあげなければ。
…ミディがミディであるために。

『一緒』を、大切にするために。


-第8枠 了-

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