ミディの放浪日記~第9枠 聖なる孤島へ向けて -the ship-
(オリジナル)
作者:義歯
紹介メッセージ:
小さな女の子が紡ぐ小さなファンタジー物語。
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第9枠 聖なる孤島へ向けて
ぽてぽてぽてぽて…。
「こんこん」
ミディの声だ。
てことは…もう朝ですか。オラはまだ眠いだよ…。
「カイー、開けるよぉ」
「うー」
俺はベッドに身を隠した。
が、ミディは部屋に入って一直線にベッドに向かってくる。
…バレバレか。
「おっはよっ、カイ♪」
「うー」
「おはようだよぉ、カイ~」
ぽてぽて歩いてさらに声も近くなる。
「カイ~」
ぺちぺち。
「カ~イ~ってばぁ~」
ぽかぽかぽか。
「おはようしようよぉ~」
…頼む、ぽかぽか攻撃はやめてくれ。
「お~き~て~よぉ~」
「い~や~だ~よぉ~」
「…あう。カイ、わがままだよ」
…ごめんなさい。
「わーったわーった、分かった、起きる起きる」
「やったー、起きたー♪」
ぴょこぴょこ跳びはねて喜びまくるミディ。
俺は全然嬉しくない。
「くぁ~ぁ…いま何時なん…」
…ちょっと待て。
「5時?」
俺は時計を持ったまま固まってしまった。
「ミディ…オイ、早すぎやしねぇか」
「みんな起きてるよ?」
首を傾げて、きょとんとするミディ。
「………イリスは?」
起きてる筈ないよな。あの寝坊クィーンが。
「うんとね。だからカイを起こしにきたの」
起こしても起きないから俺に起こして欲しいってことね…。
「でもミディよう」
「ふぇ?」
「なんでこんなに早いんだ? 俺まだ眠いぞ」
「あれ? おふねにのるんでしょ?」
「ああ。そうだけど?」
「うみのおとこはあさがはやいんだよね?」
どこの世界の話だ、それは。
「やーれやれ…」
よっ、と身体をベッドから起こし、俺は立ち上がった。
「起きちまったモンはしょうがない。ミディ、イリス起こしに行くぞ」
「はーい♪」
***
「すぅ…すぅ…」
「ね。起きないの」
しっかし、まだ夜明けだとは言え…この暑い中でよく布団被って寝てられるもんだ。
「んんー…すぅ、すぅー…」
しかも熟睡。
「起こしてみて?」
「あいよ。イリスー、起きろー。飯だぞー」
反応なし。
朝飯につられて起きてくるかと思ったのに。
「おーきーろー、っつーの。いつまでも寝てるんじゃ…」
「…カイ、すき…」
「ねえ…って…」
「ふぇ? カイ、すき?」
な、お、オイ。コイツなんて夢見てやがるんだよッ。
「…だらけ…」
「…あ?」
すき、だらけ。隙だらけってか。
…コイツなんて夢見てやがるんだよ。
「とっとと起きろこのバカ。」
寝こけるイリスにゲンコツ一発。
「いたた…何…地震?」
地震で何か落ちてきたと思ったのだろうか。
…地震なんかで起きるわけもないくせに。
「もう朝なんだよ。起きた起きた」
瞼をこすりながら時計を覗き込むイリス。
「えぇ~…だってまだ5時…」
「だめだよぅっ。起きなきゃだめ」
「うぅ~ん…」
「うみのおんなは、なきながらおとこをおくりださなきゃいけないんだよ」
…どこでこんな偏った知識を身に付けたんだこの娘は。
「ほれほれ、もう覚悟を決めろ。眠気覚ましに朝市でも見ていこうぜ」
「う~…分かったわよ~」
***
宿を出て、朝市を見ながら軽く腹ごしらえをした俺達は早速港へ向かった。
…驚いたのはこの時間でも宿の主人がカウンターに居たこと。
あそこで生活してるんじゃないだろうな。…俺はそうとしか思えないんだが。
「わぁ~…ひとがいっぱいだねっ」
そう言ってはしゃぐのはミディ。
確かに、この時間でも船着場の辺りは活気がある。
貿易港、ベドウェン。
古くは漁港として、今では貿易港として栄えている町だ。
この大陸には港が少ない。近くにある国・島と言ってもリットランドのみ。
他の国に行くにはそれ相応の準備と、整った環境が必要だ。
そこで当時のラクソール国王に目を付けられたのがココ、ベドウェン。
当時は漁港だったここの港に国の大型船が入港するようになって以来発展を続け、
ベドウェンは大陸の港としては最大規模のものとなった。
もちろん、今でも漁船は出入りしている。先の朝市がその例だ。
漁師達も、ここの町が大きくなるならという条件で貿易船の入港を認めたそうだ。
「ねっ、イリス!」
「そうね。みんな朝早くからお仕事頑張ってるのね」
ミディと手を繋いだイリスが言う。
「カイもそう思うよねっ!」
「それはいいけど、はぐれたりするなよ?」
「ふぇ?」
「人に紛れたら分かんなくなっちまうからな」
「ぶぅ。わたしこどもじゃないもん!」
いや、子供だって。
「ぷん」
とか言いながらしっかり俺とも手を繋ぐ。
昨日以来、ミディは片時も俺達の傍を離れない。
俺のトコにいないときはイリスのトコに確実にいる。
「カイ、その船乗りってどこにいるの?」
「ああ、あいつならずっと船の上で生活してるよ。
やっと自分の船が手に入ったのが嬉しくてたまらないんだそうだ」
「変な人ね。」
「腕はいいんだけどな。忘れ物とかしてないよな?」
「大丈夫よ」
「おさいふと、うさぎさんと、にっきちょうと…えとえと、だいじょぶだよっ」
「よし、んじゃ早速乗り込むとしますか」
「はーいっ♪」
***
出港して暫く。
風の後押しのおかげでもう港は見えない。
辺りは一面の大海原だ。
俺は一人甲板に居て風を浴びていた。
「いーい風だなー。何だったかな、文学作品のタイトルを思い出すぜ」
「風と共に去りぬ、か?」
後ろを振り向くと、酒瓶を持った船乗りが立っていた。
「なんだ、ドランクか」
「ドランクじゃねェよ。ドレイクだって何度も言ってんだろ」
「ドランク(酒飲み)でいいだろ。間違ってねぇんだし。手に持ってる酒瓶は何だよ?」
「水だ」
「…。」
やられた。
「それはそうと、リットランドまでどれくらいかかりそうなんだ?」
「そォだなー…風もいいし天気もいいから4日ってトコじゃねェか」
4日か。思ったより早く着くモンなんだな。
「ところで、あいつらは?」
「知るか。」
コイツ…ドランクって言われたのを根に持ってやがるな。
分からないんなら仕方ないか…ちょっと船室にでも行ってみるか。
***
「うぉい、入るぞー」
一応これだけは言ってドアを開けると、
「あ、カイっ! たいへん、たいへんだよぅっ!」
途端にミディが泣きついてきた。
「ど、どうした。大変って何が大変なんだ?」
「うんっ、あのねあのねっ、イリスが起きてこないのっ」
俺にしがみつきながらミディは混乱状態だ。
「起きてこない?」
「うんっ。えっとねっ、おふとんにくるまって、うんうんうなってるのっ」
「…う、唸ってるだぁ?」
「うんっ。…どぉしよぅ、カイ…」
不安げな表情をするミディ。イリスが病気だと思っているんだろう。
「大丈夫だって。そんな心配すんなよ」
「ふぇ…でもでもでも」
「病気じゃねぇよ、きっと。俺、ちっと様子見てくるわ」
「わたしもいくよぅっ」
俺とミディは並んで船室に入った。
「うーん…うーーん…」
「…おいイリス、どうした?」
「うぅー…」
ミディの言っていた通りに、イリスは頭から布団を被ってベッドに横になっていた。
「カイ、お願い、だから、あっち、行ってて…」
「何だってんだ、一体?」
ミディに聞いてみた。
「ふぇっ、えっとえっと、さっきまではげんきでだいじょぶだったんだよっ」
「ふむふむ」
「だけど、いきなり『うー』って」
ついさっきから…ねぇ。
「大体合ってんのか、イリス?」
「…うん………うぷっ」
…うぷっ?
「ふぇ? うぷ?」
「お前、まさか…船酔い?」
無言で小さく(しかできないんだろうが)頷くイリス。
「…ビンゴ?」
今度は何の反応もない。こりゃあ当たりだな。
「ねぇねぇカイっ」
急にミディが服の袖を引っ張ってきた。
「ふなよい、ってなぁに?」
…時として子供ってすっげぇ残酷だよな。
「今、俺達は船に乗ってるよな?」
「うんうんうん」
「で、こう…船ってゆ~らゆ~ら揺れるだろ? それで体も揺れて気持ち悪くなるんだ」
「それが、ふなよい?」
「そ」
「へぇー…そぉなんだぁ。でもでも、わたしはへいきだよ?」
「ああ、船酔いってのはなる人とならない人がいるからな…ん?」
話をしていると、布団の中からイリスの手だけが伸びて必死に俺をつついている。
「ふ、船酔いの、話は、し、しないで…」
「あ。悪い。」
「う~…」
イリスは再び布団の中で唸り始める。
「…イリスふなよい?」
「ああ。そうみたいだな」
「カイ、なおしてあげて?」
俺は医者じゃないし、魔法使いでもないんだが。
そんな簡単に船酔いを治すって言ったって…。
…治すってことは、楽にするってことで……。
そう考えた刹那、俺の頭脳に電撃が走った。
「そうだな。楽にさせてやろう」
「うんっ!」
そうだよな。リラックスも大切だし。
いつでも暗い気分で旅してたんじゃよくないし。
ここらで本来の俺を発揮させとくとするか。
***
「…さて、イリス。」
ぐーるぐーる歩き回る俺。
「な、何よ…苦しいんだからあんまり喋らせないで…」
椅子に座って机に突っ伏すイリス。
「ふぇー」
部屋のすみっこで見学するミディ。
「いい加減話してもらおうか」
机に片手をついて、威圧するような口調で俺は話し掛ける。
「な、何を…?」
…何だろう。
「えーと…この際だから話しておきたいとか、
もう時効だから話してもいいだろー、みたいな事あるだろ?」
「っぷ…時効、ねぇ…んーと」
イリスは少しの間考えていたが、間もなく何かを思い出したようだ。
「…カイが買ってあったお菓子を食べたのは私です…」
なっ!?
「あれミディじゃなかったのか?」
「ぶぅ、ちがうよぅ。わたし、自分のあるもん」
…待てよ。
「じゃあ列車ん中で寝てるときに俺の服を剥いだのもイリスか?」
あの日は確か蒸し暑い夜で…でも夜風が涼しかったんだよな。
それで目が覚めて気づいたら上半身裸だったと。
隣りで寝てたのはイリスだったはずだし…。
「違うわ…。それはミディよ」
「きゃー」
「ふぇっ、あのねっ、カイすっごい暑そうだったから、すずしくなるかなぁって…」
「…恥ずかしくて逆に暑かったわい」
「ふぇ、ごめんなさい…」
「えーと…他には何かあったかしら」
また考え始めるイリス。
…これ以上変な話が出てきたら俺の身が持たん。
「もういい」
「…そう? 何か思い出しそうだったんだけど…」
止めておいてよかった。
「さあ、色々と話した事だし…もう楽になれよ」
「…え?」
「色々と吐いただろ? 警察機構の取調べっつーのを真似てみたんだけど」
「う…あ、あなた何言って」
椅子から立ち上がって叫びかけた瞬間に、
ぐらぁぁぁっ!
と、船体が大きく揺れた。
「…………う……んんーっ!」
イリスは船室の外へ猛ダッシュ。
…よく粘ったけど限界か。
「ふぇー、びっくりしたぁ」
「そだな」
「イリスは?」
「…さぁ。俺の口からは何も言えねぇよ…」
「…ふぇ?」
バンッ!!
「うわ」
ドアが勢いよく開いた。
そこからイリスが下を向いたまま、ゆっくりとこちらに歩いて来ていた。
「………。」
無言のまま再びベッドにもぐりこむ。
「イリス、イリスっ、だいじょぶっ?」
…大丈夫なはずがないんだよな。
「ごめんねミディ…ちょっと寝かせて…」
「ふぇ…うん、わかった。おやすみ、イリス。」
***
船室から、出る。
イリスを静かに寝せて起きたいと、ミディが言い出したことだ。
今までだったら、イリスが寝てても傍にいるとか言ってそうなもんだったけど。
「うん、良い風だ。」
甲板まで歩くと、爽快な海風が身体全体を覆う。
「かぜつよいぃ…とばされちゃうよぉ」
しっかりと俺に掴まっているミディ。
やっぱりあのときから決して俺達の傍を離れない。
そんなミディを見て考える。
一人は嫌。
あの時ミディが言った言葉だ。
もしかしたら、ミディの探しているものもそれに関わっているのかも知れない。
そう思った。
「カイっ! 見て見て見てっ!」
ミディに呼ばれる声で思考が現実へと引き戻される。
「ん?」
ミディの指差す方向を見てみると、そこにはイルカの群れ。
「ほー…イルカか」
「ふぇ~、イルカさんっていうんだ~」
「ミディは、海に来た事ないのか?」
「ふぇ? んとんと…あるよっ」
「そっか」
ならば、この航海も無駄にはならないかもしれないってことか。
「イルカさんいっぱいだねっ♪」
「そうだな」
海を見ると、ミディの声に応えるように跳びはねるイルカたち。
「ふぇ~…すごいすごいー!」
ぱちぱちと手を叩いているミディ。
…こうしてると、ただの子供にしか見えない。
とても一人で旅をする理由があるようには、とても見えない。
俺はミディの頭をくしゃくしゃに撫でた。
「んみゅ…どぅしたの、カイ」
「ん? ああ。また友達が増えてよかったな、ってさ」
「えへへ、うんっ♪」
***
3日後。
「もうそろそろ着かないの…?」
「あー? もう1日以内には着けると思うけどなー。船室でじっとしてたらいいんじゃねェのか?」
「ど、どうでもいいから、は、早く…うぅっ」
イリスの船酔いは寝不足がたたっているのかとも思ったがそうではなかった。
ただ単に船に弱いだけ。
「ふぇ。ふなよい、ってたいへんなんだね」
けろっとしてる奴もいるのにな。
「う~~…船なんて嫌いぃ~…」
-第9枠 了-
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