ミディの放浪日記~第11枠 新しい道 -the step for-
(オリジナル)
作者:義歯
紹介メッセージ:
小さな女の子が紡ぐ小さなファンタジー物語。
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第11枠 新しい道
-首都ラクソール-
古くからある国で、大陸では最も歴史がある国。
その国名と首都名は同じ、ラクソールである。
首都というからには賑やかな町並みを想像する奴も多いかもしれないが、
そんなことは全く無く、端から見るとただの田舎町だ。
それもそう、国王のいるラクソール城はここからまた離れたところにある。
万が一、戦争などが起こった場合に城下町の国民に被害が及ばないようにと、
初代国王がこのようなかたちを取ったらしい。
城下町をそれと分からないようにする、という。
結局、起こった戦争では巨人隊が全面的に戦う事となり国軍は輸送隊にしかならなかったのだが。
つまり、首都に大きな被害はなかったのである。
その所為もあってか、この町はいたって穏やかだったりする。
「ん~」
町に一歩踏み入れ、伸びをするイリス。
「ここに来るのも久しぶり」
俺がハイアードに着いたときと同じ様な感じなのだろう。
懐かしい空気を吸ったってやつだ。
「んで、イリス」
「何?」
「その先生とやらの家はどこにあるんだ?」
俺を見てふうっ、と呆れたように溜息をつく。
「…何だよ。」
「別にそんなに急がなくったっていいんじゃない? って思ったの」
「他にやる事もねぇだろ」
「宿探さなきゃいけないじゃない。ほら」
と、俺の横にいるミディに目をやる。
「ふゎ…ぁふ。うにゅうにゅ…」
眠そうである。
「ね。」
「…じゃあいつも通りに宿探しから始めるとすっか」
ぐいぐい。
「ん?」
ミディが服を引っ張っていた。
…だから伸びるだろうが。
「ねぇねぇ、せんせぇのお話は?」
「それより先に宿に行かないとな」
「ふぇ~…わたし、お話ききたいよぅ」
「…だそうだ。イリス。」
俺がそっちを見るとイリスは諦めたような表情で言った。
「もう…仕方ないわね。それじゃ、先生の家におじゃましましょ」
***
「…? お手伝いさんもいないのかしら…」
暫く呼び鈴を鳴らしたが何も反応が無い。
「いいわ、上がっちゃって」
「おいおい、お前はともかくとして俺達まで勝手に上がっていいのか?」
「平気平気。先生そういうの気にしない人だから」
…それは…まぁ、おおらかな先生だことで。
「さ、行きましょ」
「ふぁーい」
「…へいへい」
多少入り組んだ家の中をすいすいと迷わずに進んでいくイリス。
寝室に一直線に向かっているのだろう。
「あら…? 先生ともう一人誰かいる…」
寝室らしき扉の中から話し声が聞こえてきた。
「お手伝いさんじゃーねぇのか?」
「だったら呼び鈴に気づいてもいいじゃない」
それもそうだ。
「誰だろ…。失礼しまー…」
扉を開けて、ゆっくりと寝室に入る。
「あーっ!」
…入る、途中でいきなり大声を上げる。
「あなた、もしかしてスタビアじゃないっ?」
「イリスですか! お久しぶりですね」
部屋に入るや否や、ベッドの横に立っていた奴に駆け寄る。
「懐かしいー…もうどれくらいぶり? 2年くらい?」
「そうですね、2年になるはずです」
「でも…どうしたの? 色々と歩き回ってるって聞いてたけど…」
「ええ、今日は先生に呼ばれまして。それで戻ってきたのですよ」
「ふぅん、そうだったんだ…」
…。
ぐいぐい。
「ねぇねぇカイ?」
「…ん、あ、ああ? どうしたミディ?」
「あのひとだれ?」
「…知らん。」
「ふぇ~…」
途方に暮れる俺とミディ。
「スタビア、先生は…あ、寝てたのね」
「ええ。僕は言われた用件を済ませてしまったので帰ろうかと思っていたところですが。
…ところでイリス、後ろの男性と女の子は?」
「あ」
…思い出したように言うな。
「紹介するわね。カイと、ミディ。一緒に旅をしてるの」
「こんにちはっ」
ぺこりっ。
「こんにちは。僕はスタビア、探偵業を営んでおります。よろしく」
「た、探偵だぁ?」
思わず声がひっくり返る俺。
「前から勘が鋭かったのよね、スタビアって」
「失礼な。きちんとした思考に基づいてしか結論は出しません」
うわあ、なんか痛い奴だ。
「…んで、どーするんだよイリス?」
「えっ?」
「えっ? じゃなくてだな。先生が寝てるんじゃ起こしてまで
話聞くわけにもいかねぇだろうが」
「あ、うん…そうね…どうしようかしら」
それに、病人らしいしな。愚痴を喋るってのは聞いていたが、
長話は身体によくない。
「何か、先生に聞きたい話でもあったのですか?」
スタビアが割って入る。
「ん、ああ。えーとな」
***
「なるほど…。」
俺が簡単に事情を説明すると、顎に手を当てて考え出す。
「その子は何かを探している、それが何かは分からない、ですか」
「ああ。要点だけ言えばそんなとこだ」
「海を見たことはあったのですか? あなた達に出会う以前に。」
ミディに近寄って質問をするスタビア。
「うんっ。うみ、しってるよっ」
「それでリットランドへは行ったのですね?」
「ええ、行ったけど…特に何も無かったわ」
「ふうむ…ミディさんは自分がどこで生まれたのか覚えていますか?」
「…ふぇ?」
覚えていないらしい。
「それではこの大陸をくまなく歩き回るしか方法は無いでしょうね。」
「くまなくって言ったってな…もうハイアードからリットランド、
んで今ラクソールって、大体の所は回ってきてるぜ」
「それではまだ半分しか回っていない事になりますね。」
…何?
「スタビア、それ…どういう事?」
「結論から言いましょう。我々の知っている歴史、地理は間違っています」
「…おいおい、それとミディの探しものと何の関係があるんだよ?」
「ミディさんは先ほど、出身地を覚えていないと言いました。そうでしたね?」
「ふぇ、えとえと…しゅっしんち、ってなに?」
「…生まれた場所のことです。」
「ふぇー…そぉなんだぁ」
さすがの探偵様もミディにはペースを乱されるようだ。
「覚えているのならばその土地へ行けば何らかのヒントもあるかもしれません。
しかしこの場合はそうではない。文字通り、全て探し回るしかないのです」
「…だから、それと地理と何の関係があるんだよ?」
「イリス」
突然イリスに話を振るスタビア。
「えっ?」
「我々は、スタグス大山脈の向こうは何があると教えられましたか?」
スタグス山脈…ラクソールのさらに西にある山脈か。
確か、陸の北の端から南の端までずっと続いてる大山脈だったな。
「人が住めないくらいの砂漠でしょ? 先生からも教えられたじゃない」
「そうです。ですが事実は違って、山脈の向こうには人が住んでいます。
山脈を越える方法が無いというのも間違い…安全なルートはきちんとあります」
「…結局」
痺れを切らして俺は一歩前に出て、詰め寄った。
「何が言いたいんだ、探偵?」
「探すところが無いのならば、何のヒントもないのならば…
山脈の向こう、西の地域へ行ってみた方がいいかも知れません」
***
「…どうしたもんかね」
先生とやらは結局寝っぱなしだったが、
スタビアとかいう探偵から興味深い話を聞くことができた。
「西、ねぇ。」
宿を取り、晩飯を済ませ、部屋のベッドに横になりながら考える。
「他に行く所もねぇし、行ってもいいんだが…ミディも行きたいとか言ってたしな…」
最後の最後の一言が気になる。
『向こうはこっち側と別世界と思ったほうがいいと思いますよ。
特殊な生物しかいませんからね。ええ、勿論人間も含めてです。』
「何なんだ別世界って…」
…おいおい、俺が弱気になっててどーする。
「お化け屋敷に入る気分でいれば大丈夫だろ」
よし。
2人に内緒で酒かっくらって来よう。
そして寝よう。
明日もまた同じように、歩いて、探して、そうするだけさ。
***
-翌朝-
「悪い悪い…寝坊しちまった」
昨夜の酒が効いているのか、寝坊するほどぐっすりと寝ていたようだ。
ミディは勿論のこと、イリスも準備を済ませて宿の前で待っていた。
「珍しいわね、あなたが寝坊するなんて」
「カイおねぼうさんだよ~」
「ああ、ちょっと夜更かししててな」
「よふかし?」
きょとん。
「ねぇねぇ、よふかし、ってなぁに?」
「大してすることも無いのに寝ないでずぅーっと起きてることよ」
「ふぇー…そぉなんだぁ」
…おい、若干違うぞ。
「…あのなぁ、俺は考え事をしてたんだよ」
「考え事?」
「ああ。この先は西に向かおうとか、あと…」
俺にはどうしても解決しない疑問があった。
「あと、何よ?」
「あのスタビアって奴、男か、女か?」
「え…」
答えに詰まるイリス。
「…そう言えば知らないわね」
…おいおい。
「もう一つ…イリス、お前あいつとどーゆー知り合いなんだよ?」
「先生の生徒だったの、同期でね。それで友達になって」
「…イリス」
「なに?」
「悪い事は言わない、友達はキチンと選んだ方がいい。」
「…バッカじゃないの? ほら、ミディ行きましょっ」
「ふぇ、あ、あうあう」
すたすた歩いていくイリスに走っておいつくミディ。
「ねぇねぇイリス…ばっか、ってなーに?」
「バカよ、バカ!」
「ふぇー…カイ、ばかなの?」
ぐさっ。
「かもね」
「ふぇ~…そぉなんだ」
「…。」
少しばかり距離をおいてついていく俺。
「…男は辛いなオイ…」
-第11枠- 了
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