ミディの放浪日記~第12枠 西方幻想譚 -幻想の世界へようこそ-
(オリジナル)
作者:義歯
紹介メッセージ:
小さな女の子が紡ぐ小さなファンタジー物語。
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第12枠 西方幻想譚 WestsideFantasy
ラクソールを出て1週間が経った。
俺達3人は休み休み山脈を越えようと歩いている。
ミディが眠たくなったら休み、イリスが疲れたら休み、俺の腹が減ったら休み。
そうやって1週間歩いて、ようやく登りを終えたところだ。
「うわー…すげぇ、見てみろよ2人とも」
「えっ?」
「ふぇ?」
丁度、山脈の向こう側が見渡せる所。
そこから西に広がっていたのは砂漠…ではなく、緑のある平原。
ところどころではあったが、町らしきものも見受けられた。
「ふぇー…ひろい~」
ミディはただ呆然とするばかり。
「うっし、あと半分だ。もう少し頑張って行こうぜ」
「そうね。目的地もしっかり見えたことだし」
「うんっ、わたしもがんばるよっ」
***
-2時間後-
見晴らしのいい場所…まぁ平たく言うと絶壁だったんだが、そこを過ぎて2時間。
俺達は今、森の中で食事休憩を取っていた。
「節約しながら来たけど…だいぶ鞄も軽くなったな」
それはそうだ。
最後に立ち寄った町であるラクソールを出て、早1週間。
その途中、木の実を採ったりで何とか今までやってきた。
しかし残っているのは保存食のみ…。
…またこれが不味いんだ。
「なあイリス、ミディは保存食って食えんのか?」
「えっ? さあ…食べさせたことないから分かんないけど…」
試してみるとするか。
「ミディ、こっち来い」
「ふぇ? なぁに?」
ぽてぽて歩いてやってくる。
「ほれ」
俺は鞄から保存食を一切れ取り出した。
「臭いかいでみれ」
「くんくん…」
途端にそっぽを向くミディ。
「べぇ」
臭いがダメらしい。
このまま食うんじゃなくて、こっからまた調理するから問題はないと思うが。
「イリス~…カイがいじわるする~」
…おい、ちょっと待て。
「ミディ、意地悪じゃなくって…あれは食べ物なの。
ミディが食べれそうかって臭いかいでもらったのよ」
「ふぇ…そぉなの?」
「そうなの。」
「ふぇ…カイ、ごめんねごめんねっ」
自分が凄い悪い事をしたと思っているのか、今にも泣きそうな顔。
「いいって。変なもん嗅がせた俺も悪かっ…ん?」
「?」
「ふぇっ?」
ミディの後ろの茂みで何か小さい物が動いた。
ガサッ。
「? うさぎさんかな?」
…森にいる動物は兎だけじゃないと思うんだが。
「うーさぎさーん?」
茂みに手を突っ込み掻き回すミディ。
…これじゃ動物だろうと出てくるしかないだろう。
ひょこっ。
予想通りに茂みから小さい動物が出てきた。
兎よりもう少し小さいサイズで、全身が暖かそうな毛に覆われている。
…が、兎と明らかに違うところ。額とされる部分に角が生えているのだ。
「ふぇ~…このうさぎさんツノ出てる~…」
兎…ってか毛玉のような動物をミディは手にとった。
「…キュー」
コイツ鳴くのか。
「おなかすいてるの?」
…なぜ分かる、ミディよ。
「えとえと…はい、木の実。おいしいんだよ?」
手のひらの毛玉に木の実をやろうとするが、毛玉はふるふると震えたまま口にしない。
「うーんと…」
もぐもぐ。
「ほぁ、おいひいかぁ食べよ?」
口に頬張りながら、かじった後の木の実を毛玉の前に置く。
ミディが食べているのを見てか、毛玉はそれを食べ始めた。
「えへ」
毛玉の様子をにこにこしながら見ているミディ。
「…。」
その様子を見つめる俺とイリス。
「…何なんだあの毛玉は?」
「私に聞かないでよ…角が生えた兎なんて見たこと無いんだから」
これが本当の兎に角(とにかく)ってか。
「これがスタビアの言ってた特殊な生物って奴か…?」
「そう…みたいね。人間も特殊って言ってたけど、みんな頭に角があるのかしら」
「角一族の国ってか…別に害はなさそうだな」
いや待てよ。
振り向いた時にいきなりグサッ、何てことがあるかも知れない。
町では年に一度、角自慢コンテストとか…ミス角とかやってるかも知れない。
「う、うーん…見たいような決して見たくないような…」
「…? どうしたのカイ?」
「あ、い、いや…何でもねぇ」
ふう…やばいやばい。思考が暴走しかけてたぜ。
「キュー♪」
ん?
「わっ、わわっ、あはは、くすぐったいよぅ」
毛玉がミディに身体をすり寄せている。
…そりゃー、あんな毛むくじゃらに近寄られればくすぐったくもなるよな。
「……え…?」
俺の後ろから声がした。
聞いた事の無い、女の声のような感じだ。
「ユニィが人間になつくなんて…」
やがて声の主は茂みから出てきて姿を現す。
…妙に露出度の高い服を着たやつだな。
年の頃は16くらいってとこか。
「ユニィ…?」
出てきた女に俺は聞いてみた。
「え、そこの子が持ってるあれだけど…。ユニィの幼態を見たことないの?」
「…幼態どころかあんな生き物見るのも初めてだ」
「えぇぇ!? キミ達どんな田舎に住んでるの!?」
初対面で失礼な奴だな。
「ちゃんとした町に住んでるんだがな…知らないか? パトナとかテインツって」
「…どこそこ?」
ぐはっ。
「山脈の向こう側なんだが…聞いた事もないか。ないよな。」
「えー…? 何言ってるの?
山脈の向こう側ってずっと砂漠が続いてるって昔から言われてるじゃない。
ボクのお爺さんのお爺さんよりも昔から言われ続けてるんだよ」
「はっ…? その言い伝えって山脈の向こうにいた俺達も聞いてたぜ」
こう言い返すと女は呆気に取られたような表情になった。
「何それ…まるでボク達、隔離されてるみたいだ…」
「なあ、聞いていいか」
「…え、あ、うん。」
「町までどのくらいかかる?」
「どうして?」
「…飯がねぇんだよ。」
しーん……。
「ぷ」
「?」
「あ…あはははははは」
「な、何だよ。何度も失礼な奴だな」
「だって、だって…ひー、さっきまで真面目な話だと思ったらいきなり…あはは」
真面目な話じゃねぇか。
御飯食わないと人間生きていけないんだぞ。
「じゃあボクの家においでよ! ここからすぐ近くだしさっ」
「…だとさ。どうする?」
「いくー!」
ミディ決定。
「久しぶりにベッドで寝たいなー、なんて…」
イリスも決定。
「お邪魔させて貰うことにするかな」
「うん。あと30分くらいだけど頑張って歩いてね、えーっと…」
「カイだ。こっちがイリス、んでミディと毛玉」
「け、毛玉…」
イリスが後ずさる。
「…何だよ。」
「それ…名前のつもり?」
「当たり前だろ。幼態ってことは生まれたてで、ついでに野生だから名前もないだろうし。
ミディに懐いてるから名前がないと不便だしな」
「でも毛玉はちょっと…」
俺は毛玉に指を向けながら言った。
「な、いいだろ毛玉?」
がぶっ。
…噛まれた。
「ゆぅに、カイは食べものじゃないの。食べたら、めーだよっ」
へ?
『ゆぅに?』
3人が声を揃えた。
「うんっ、さっきユニィって言ってたから」
あ、なるほど。
「ねー、ゆぅに♪」
「キュー♪」
どうやら名前は「ゆぅに」で決定のようだ。
残念。
「で…あんたの名前聞いてないが」
「ボク? ボクはフィオ。フィオ=アークライトだよ。よろしくね!」
-第12枠- 了
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