ミディの放浪日記~第13枠 西方幻想譚2 -『他』の生物-
(オリジナル)
作者:義歯
紹介メッセージ:
小さな女の子が紡ぐ小さなファンタジー物語。
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第13枠 西方幻想譚2 AnotherCreatures
-夜-
寝室に行っていたイリスが、居間に戻ってきた。
元々ここは5人が住んでいた家らしく、ベッドもそれだけある。
家主は町に移り住んでいるのだそうだ。
「呼んでも起きないくらいぐっすり寝てるわ…よほど疲れてたのね」
ミディのことだ。
本当なら、俺もイリスもすぐに眠って疲れを紛らわせたい。
だが今は、それを置いて気になることがありすぎるのだ。
「面白そうだね、東って…ボクもいつか行ってみようっと」
森の中で出会った少女、フィオに、俺達が住んでいる『東』の話をしていたところだった。
俺達と同じく、こいつも山の向こう側がどうなっているのか知りたくて仕方がないらしい。
「でもさ、機械だっけ?」
「んあ? 機械がどうかしたか」
「それだったらこっちにもあるよ、似たようなもの。」
まぁ不思議な話じゃない。
山脈を隔てて生態系が違うとは言っても、
採れる鉱物が同じで機械に関して同じ事を考え付く奴がいれば開発はされるだろう。
「スゴイでしょ。ボクの相棒が持ってるんだよー」
「別に…」
「何だよ、ノリ悪いなぁっ」
ぷん、と頬を膨らませて不満をあらわにする。
…ふっ、まだまだ子供だな。
「…さあ、次はこっちの質問に答えてくれ。」
「ん、OK。」
「あの毛玉…ユニィって何なんだ?」
フィオは少し考えるような動作をする。
言葉を纏めているのだろう。
「ユニィは…古いお伽話にあったユニコーンの亜種って言われてる小動物だよ」
「ユニコーンって、あの頭に角が生えてる白馬?」
イリスが割って入る。
「うん、そう。ユニィにも角があったでしょ?」
「んで、アレは普通…人間に懐かないモンなのか?」
フィオの表情が固くなる。
「…普通はね、懐くはずが無いんだ。目の前で親が狩られちゃうから。
そうなったら人の形してるものを恨んでも仕方がないと思う。」
少し表情を和らげて、フィオはさらに続けた。
「でも、あのユニィはあの子を信頼してるみたいだから、
もう人間を敵とは思わないよ、きっとね」
唖然として聞く俺達2人。
「悪い。今のでまた質問が増えた。」
「んっ?」
「こっちは、その…何だ。ユニコーンの亜種とかそんなのばっか居るのか?」
「ん~………キミ達はモンスターとか言うかもね」
…はぁ?
「モンスター…? そんな、それこそお伽話じゃない」
「でもこっちでは現実だよ。いろんな種族が居て、森の中でひっそり暮らしてるのとか、
あとはー…人喰鬼族なんてのもいる。その為にボク達ハンターがいるんだけどね」
「ハンター?」
「うん。そーゆー、人を食べちゃうのとか、無差別に他の生き物を襲うのとか…
そんな悪い子を捕まえたり懲らしめたりするのがハンター」
…うーん、ファンタジー。
「ハンターにも色々あって、その戦い方で種類が分かれるんだ」
掻い摘むと、剣、大剣、弓、無手、などなど。
戦い方の種類だけ、ハンターにも種類があるらしい。
「フィオは素手で戦う人なの?」
「ん? ううん、ボクは特殊。小剣と無手どっちでも」
ぽりぽりと頬を掻く。
「…なんかボク、ソードダンサーとか呼ばれちゃってるみたいなんだ。
踊りなんてしたことないのに…これって変だよね」
…まんざらでもなさそうだ。
「では次の質問。」
「あ、うん」
「相棒って何だ」
「えっ、辞典見る?」
…殴り倒すぞこの小娘。
「あ、ホラ…そうじゃなくって、こっちでの相棒ってどういう意味を持つのかなって…そうでしょ?」
イリスが的確なフォローを入れてくれる。
「あ、ああ。その通り」
「んーっとね…ハンターは2人1組で行動する物なんだ。
言い換えると、相棒がいないとハンターとしては仕事が出来ないってこと」
なるほど。
「ボクの相棒は特殊な武器を使ってるんだよ」
「特殊な武器って?」
「…えーっと何だっけ」
「おいおい、相棒の武器くらい覚えててやれよ」
「そんな事言ったって…分かんないものは分かんないんだもん」
ぶすっといかにも不機嫌な顔になるフィオ。
「…たったの二文字が覚えられないのか、フィオは」
部屋の外から男の声がした。
間もなくして、居間の入口に一人の男が姿を現した。
「あ、エリアス。おかえりー」
「ああ。ところでアンタ達はどこの誰だ?」
俺とイリスを順番に見ながら言う。
俺は東から来たことなどを簡単に説明した。
「…じゃあ、この」
エリアスと呼ばれた男が居間に入ってくる。
「ガキはアンタ達の連れか?」
「うにゅ…」
そして何故かその男と手を繋いでいるミディ。
「あれっ、ミディちゃん…なんでエリアスと一緒にいるの?」
「おトイレ…どこぉ?」
寝ぼけている。
「ミディ、こっち、こっちおいで」
「ふぁ~ぃ…」
イリスに手を引かれてミディはトイレへと退場した。
「…。」
エリアスと呼ばれた男はじっとこっちを見ている。
「…東にも機械があるっていうのは本当なのか?」
「あ? ああ。列車とか…」
「ふむ。」
そのまま黙ってしまう。
埒があかないので俺から質問をしてみることにした。
「なあ、エリアスとやら」
「む?」
「アンタの武器って何なんだ? フィオに聞いても分かんねぇし」
「俺の武器はガン。クラスはガンナーだ」
それだけ答えるとまた黙る。
「フィオ…お前よくこんな奴と相棒やってられるなぁ」
「そうかな? エリアスは頼りになるけどなー」
信じられん。
「ところでカイ君達は、これからどうするつもりなの?」
「どうするも何も…旅の目的を目指すだけさ」
「旅の目的っ?」
フィオの目が好奇心に輝く。
…言わない方がよかっただろうか。
「ねね、旅の目的って何? どうしてミディちゃんみたいな子供連れて旅してるの?
何で山脈を越えてこっちまでくることになったの?」
嫌な予感は的中するものだ。不思議なことに。
「…旅の目的は、ミディのちょっとした探しものだ。
それが何なのかは分かってねぇから、こうやって歩き回って探してる」
「手掛かりは?」
「ミディなら知ってるはずなんだがな…秘密らしい」
「へー…ふーん…そうなんだー…」
「…何だ。何か言いたげだな」
「えっ、分かる?」
分かる。
顔に聞いてくれって書いてあるし。
「ええっとねー、ボク達が色々案内してあげたいなって思ってさっ」
「嫌だ…と言ってもついてくるんだろうな」
「もっちろん!」
楽しそうに笑うフィオ。
「俺達じゃ迷うのがオチだろうからな…よろしく頼む」
「へへ、まっかせといてよ!」
「…ところで」
「んっ?」
「ボク『達』って…そこの男もか?」
「そうだよ?」
…上手くやっていけるか自信が無いんですが。
「とりあえず名前だけ聞かせてくれないか?」
「さっき聞いていただろう。俺の名前はエリアス。エリアス=パーネルだ」
「そうだったな…俺はカイだ。よろしくな」
俺に目を向けないまま話を続けるエリアス。
「別によろしくする気など無い。」
「そうか。気が合うな、実は俺もだ」
「…やれやれ」
ここでようやくエリアスは椅子から立ち上がった。
そして何か言うのかと思っているとそのまま居間を出て行ってしまう。
「もう夜も遅いし、ボクも寝よっかなぁー」
続いてフィオも立ち上がった。
「明日にはもう出発するんでしょ、カイ君?」
「ああ、そのつもりだ」
「寝坊しないようにねっ」
言うだけ言って、フィオも部屋を出て行く。
「…俺も寝るかね…」
もう日付は変わっている。
明日から…ではなくて、今日から騒がしくなりそうだな…。
-第13枠 了-
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