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ミディの放浪日記~第15枠 西方幻想譚4 -見捨てられた歴史- (オリジナル)
作者:義歯

紹介メッセージ:
 小さな女の子が紡ぐ小さなファンタジー物語。

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第15枠 西方幻想譚4 AbandonedHistory




ネレイドだったか…その町を出て1週間。
旅の疲れも溜まるころに、ミディと並んで先頭を歩いていたフィオが話し始めた。

「そろそろ中間地点の町に着くから、そこで2日くらい休んでこ」

「それは構わないが…」

俺はエリアスに借りた地図を見ながら歩く。

「中間地点って言ったら地図だとこの辺だろ?
この辺りに町なんかないみたいだぜ」

「その地図は50年以上も前の物だからな。
10年前にできたばかりの町など書かれている筈がない」

「…治安とか大丈夫なの?」

イリスが問う。

「その点は安心していいよ。まだ町全部が出来上がったってわけじゃないから、
犯罪なんてするヒマもないの」

「…ふーん」

一体どういう国なんだ、そこは。

「なあ、これから行く町ってのはネレイドとは違う国なんだろ?」

これはあくまで俺の予想。
地図を見たところでは、ネレイドの勢力はそこネレイドの町と、
そこから少し東にあったミランダという町だけのように思える。
北側には余り手が伸びていないようなのだ。

事実、ミランダとネレイドの周辺の街道には見張りと思われる輩が所々に立っていた。
しかし北側に出発して3日経った頃から見張りを見かけなくなる。
全く人の手が入っていないか、別の力が働いているか…考えられるのはどちらかだ。

しかしここに辿り着くまでに、例の…モンスターには遭遇していない。
残った可能性は、別の大きな力が働いていると言うことだけだったのだ。

「うん。この辺りから北のローランまではアルベラって国だよ」

「ねぇねぇフィオ、アルベラにもおうさまっているの?」

好奇心旺盛はどこに行っても変わらない。

「いないよ」

「ふぇ? くに、なのにおうさまがいないの?」

「うん。そこにいるのは王様じゃなくって大統領って言うんだよ」

「だいとうりょうぅ??」

ミディは頭の上に「?」マークを数個浮かべている。
…見えるわけじゃないが。

「…大統領、ねぇ。共和国家ってか。」

「でも、そこにはもう大統領がいないんだ」

は?

「いない?」

「自ら町を出て行ったそうだ。ここには自分は必要ない、と」

「ンなことになったらそれこそ治安危ねぇんじゃねぇのか?」

「そう思うよね?」

うんうん頷きながら歩いて話を進めるフィオ。

「ボクもそう思ってたんだけど、実際はそうじゃなかったらしいの。
大統領って言っても、えっらそうに皆の上から命令する人じゃなくって
皆と一緒に家建てるの手伝ったりとか…王じゃなくってまとめ役だったみたい」

俺は聞き役に徹した。

「その人が居なくなってから、人間に上も下もなくなったの。
人はそれぞれ違う人だけど、皆の権利は全部同じだって、そういう考え方になったみたい。
町を建てた人達が求めたのがただ一つのものだったってこともあるんだろうけど…」

「…なんだ、そのただ一つのものって」

「大統領のアラン=ベルクが求めた物は…一つの自由。これだけ。」

…自由。

「渡り鳥的な生活してるボク達ハンターは、よく自由だねって言われるけど、
…自由なんて皆持ってるはずなのにホントはだーれも持ってないかも知んないよね」

「…? もってるのにもってないの? うぅ~、分かんなくなっちゃったよぅ」

「あはは…そうだね、ボクも自分で喋ってて分かんないや」

誰も持っていないかも知れない…か。

「あっ、見えてきたよ」

先には、決して大きいとは言えない町。

「あれがアルベラの町」

求め、手に入れ、…そして支配された町がそこにあった。

「…カイ?」

イリスの声。

「行くぞ。」

「え、あっ…」

後ろでイリスが何か言っている。
…ように聞こえる。
俺を呼んでいるのか、罵倒しているのか…それすら分からない。
今分かるのはただ、それがイリスの放つ音であるということだけ。
…イリスの声も、ミディの声も。今の俺には届かない。
届く筈もなかった。


***




アルベラの町。
他の町にあるような大きな建物や門は一切なく、小ぢんまりとした家や商店が並んでいる。
店の位置などを見ても計画性のようなものは一切感じられなかった。
思いついたまま、ただ順番に立てただけなのだろう。
…町といえば宿屋なのか、宿だけで3軒あるのは意外だった。

「着いたはいいけど、もう夜だねえ…さっさと宿に入ろっか」

「奥の宿が安いぞ」

「へ? エリアス、何で知ってんの?」

「外見を見れば分かる。流行っていない所だということがな」

「…あ、なるほど納得…」

2人の会話を聞き流し、俺は先頭に立って歩き始めた。

「…さっさと行くぞ」

ぐいっ。

服の裾が力いっぱいに引っ張られる。

「…。」

ミディだ。
今にも泣きそうな目で、それでもできる限り俺を睨みつけている。

「何だ。」

「…っ、おこってる」

顔から睨む目が消え、表情が怯えの色を前面に出した。

「どうしておこってるの…イリスだって怖がってるよ…?」

イリスを見ると、俺の方を見ては、目が合うとすぐ目をそらす事を繰り返している。

「…怒ってるんじゃねぇよ。ただ昔を思い出してただけだ」

「むか…し?」

…そうだな。

「ミディ、イリス。少し…散歩するか」

あれだけ歩いたのに。
本当は今すぐに宿に入って休みたいと身体はそう言っているのに。
昔の俺がそれを許さない。

「ふぇ…うん」

イリスはこちらを見て小さく頷き、ゆっくりと近寄ってきた。

「暫く散歩してくる。先に宿取っててくれ」

「へっ? どうし…うん、分かった。行ってらっしゃい」

雰囲気が読めたのか、フィオが送り出してくれた。
…あのエリアスまでも。

「遅くなってキャンセルされても文句は言うなよ。」

…こんな事を言ってはいたが。


***





人気の無い所を探していたら、ここに辿り着いた。

誰も、俺達のほかには誰もいないであろう広場。
俺達3人は手近な所にベンチを見つけて座った。

「…。」

「…。」

「…」

「…カイ。むかし、って…なに?」

暫く経って、はじめに口を開いたのはミディ。

「昔…か。」

俺は息を吸い、気持ちを落ち着けた。

「自由都市、って知ってるか?」

2人は黙って首を振った。

「誰にも何の制約も拘束もされない、ただ人の自由のみを求めて
作られようとしていた…そんな町のことさ」

「…作られようと…?」

「実際には存在しない。存在し得ないんだよ」

言うと、横でミディが俺の服を掴んでふるふると首を振っている。

「大丈夫だ、怒ってるわけじゃない」

こう言って頭を撫でてやると、ミディは小さく1回頷いた。

「俺達は…昔、あの時、それを目指して戦ってた」

俺が戦争に参加することになったのは、奴の思想に共感を抱いたからだ。

「…俺がリットランド出身でガキの頃からあそこの裏面を知っていたからってのもあるがな」

それで俺はハイアードへ行き、信頼できる奴の下についた。


***





大陸側が初めてだった俺はすっかり道に迷って、右も左も分からなかった。
ベドウェンから2週間以上歩いてもラクソールらしき町へは着けない。
歩いて歩き続けてようやく着いた町で、俺は素直に道を聞くことにした。

「ラクソールに行きたいって…?」

聞いた相手はかなりの大男で、両手には酒瓶をあふれるほど持っている。
…聞く奴間違ったな、俺。

「オイオイ、ラクソールは北側だぜ。こっちは南側だからまるっきり正反対だ」

「げぇ…マジかよ。悪かったな、ありがとよ」

怪しい奴と関わるといい事はない。
さっさとその場を退散しようとした。

「ちょっと待て。お前、ラクソールに何しに行くつもりだ?
近衛兵にでも志願しに来たようには見えねえが」

が、引き止められた。

「志願は志願だぜ。近衛兵じゃなくて巨人隊だけどな」

「巨人隊に志願すんのか。それで何でラクソールに行くんだ?」

「はあ? 何でって…国王に会いに行くのがスジってモンだろ?」

「いらねぇいらねぇ。巨人隊に入りたいなら俺についてくりゃーいい」

…訳の分からん奴だと思いながらもついて行ったら、
そいつが巨人隊の頭で、連れて行かれた所は『家』と呼ばれる場所だった。


***





原則として隊員は3人1組で行動する。
俺と組んだのはあの大男と、1人の女だった。

『リットランド出身だって!?』

ある日、隊の殆どが口をそろえて叫んだ。
巨人隊の敵はリットランド側。当然俺のような存在は特異なものになる。
俺としてはどんな仕打ちを受けるのも覚悟で来ていたので、
言われることくらいは何と言うこともなかった。

「ああ。産まれたものは仕方がないだろ?」

「…草か、お前?」

スパイの事だ。

「まあ、いいんじゃねえのか草でも。連絡手段もねえし」

大男…ヴァイドは部屋に入るなりそう言った。

「だが…リットランド出身なら聞きたいことがある」

「…何だよ」

「酒は美味いか? 食い物は?」

…俺は一瞬コイツが馬鹿なんじゃないかと思った。

「…まーたヴァイドの悪い癖が始まった」

ヴァイドの後ろから部屋に入ってきた女…アイシャは腕組みをしてすっかり呆れ果てている。

「…酒は源水を使ってるから美味い。
食い物は海のモンしかないからすぐ飽きる。
ついでに言うと美人なんて滅多に見ない。残念だったな」

「うむ…残念だ」

マジだったのか。


***





そんな中だ。自由都市の話をされたのは。

「自由都市? 何だよそれ」

「自由な都市だ」

…だから内容を教えろっつーんだよ。

「どの国にもどの宗教にも属さない町のことよ。ただ自由だけを求める人が集まる町。
それをアタシ達の手で作ってしまおうってわけ」

「カイも人望があるからな。手を貸して欲しいんだ」

「…人望があるのはあんたらだろ? 俺はついて行ってるだけに過ぎないさ」

「んなこたーねえだろ」

「カイ、あんた気付いてないかも知れないけど人気者なのよ?」

「んな事言ったってな、姐御…」

バンッ、とテーブルを叩いてアイシャが立ち上がる。

「姐御って呼ぶな。」

「…すいません」

いつも怒られる。

「…そろそろ、時期だ。覚悟決めといた方がいいぜ」

急に真面目な声でヴァイドは言った。
その言葉の通り、数日後に俺は戦渦の中に身を投じることになる。


***





「…行くか。」

リットランド国民の証である十字架(クロス)を砕き、俺は工場へ向かおうとした。

「あー、いけないいけない」

と、アイシャが慌ててその工場から戻ってきた。

「どうしたんだ?」

「忘れ物忘れ物…」

緊張感ないな。

「機械の起動キーでも忘れたのか?」

テーブルの上をごそごそとやりながらアイシャは答える。

「あんなモン挿しっぱなしに決まってるでしょ…っと、あったあった」

アイシャが大事そうに手にしているのはペンダント。

「何だよそれ?」

「ペンダント。見て分かんないの? カイってそんな男だったっけ?」

「…ペンダントくらい分かる」

「あは。それもそうよね」

ペンダントを握りしめ、アイシャは嬉しそうに言う。

「これはねー…アタシのたった1つの宝物なの」

「はぁ? だったら肌身離さず持ってるとかしろよ」

俺が呆れて答えると、アイシャは乾いた笑いを返し、そして真剣な表情になった。

「ははは…そうね。もう絶対に離さないようにしなくちゃね…」

「先行くぜ、聖女様?」

「おうっ、行ってこい雷神!」

…姐御を見たのはこれが最後だった。


***





「…もう嫌だ。」

互いに機械に乗り込んだまま相手を正面に見据える。
機械を通して俺の無機質な声が外に響く。
俺と、目の前の機械以外は他に動くもの何もがなくなった、戦場だった場所で。

「これが犠牲か。これが目的のために費やされる事か。これがお前の望んだ道なのか!
…俺はこんな道なんて望んじゃいない。俺は誰もが自由に繋がる道を開きたかった!」

「…。」

「アイシャも消えた、他の連中も行方知れず…それなのにお前はまだ続けようって言うのか…。
国の争いはもう殆ど終わっているのに」

「…。」

奴は無言で『デス・ペナルティ』の照準を俺に合わせた。

「…撃つのか」

「充填が終われば撃つだろうな」

「…」

俺は無言で奴を睨みつけた。
…視線など届いてはいないだろうが。

「…たまに酒でも飲みに来いや」

そう言うと奴は自分の真後ろにそれを発射した。
遠くから迫っていた騎士団一個大隊が一瞬で壊滅する。

「…ああ」

俺は飛び立った。


***





「…」

「…カイ? どうしたの?」

イリスが俺の顔を覗き込んでいた。

「急に黙って…」

「ん? ああ…」

あの頃の事を思い出しながら考える。
自由都市なんてなくても…皆生きてるし、不幸がある分、幸せな事だってあるんだ。
時には、選択を迫られる事もあるだろう。

俺達にあるのはたった一つの選択肢。
『自由』という選択だけ。

「…いや、色々ありすぎて話す事が見つかんなくてさ」

「えっ?」

「ま、別にいいじゃねぇか俺の昔話なんか」

「よくないよぅ」

ミディが横から服を引っ張る。

「カイのこと知りたいよ」

「よし、じゃあ教えてやる」

「うんっうんっ」

「俺は、俺。OK?」

「ふぇ…そっか」

納得したようだ。

「じゃあじゃあ、イリスはイリスでわたしはわたしなんだねっ」

「そゆこと」

俺は立ち上がった。

「そろそろ宿に戻ろうぜ、なんか雲行きが怪しくなってきた」

「そうね、降りだす前に行きましょ」

続いてイリス、ミディ。

「おなかぺこぺこだよぅ」

「うっし、早く戻って飯にしようぜ」

「わーい♪」

色々と考える事は、ある。
でも今は、俺はこうして歩いている事が楽しいし、幸せだと感じている。
これも、自由な選択をした結果の一つさ。

そうだろ? カイ。




-第15枠 了-

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