ミディの放浪日記~第16枠 西方幻想譚5 -いってきます。そして、"さようなら"-
(オリジナル)
作者:義歯
紹介メッセージ:
小さな女の子が紡ぐ小さなファンタジー物語。
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第16枠 西方幻想譚5 A Port-Departure and Saying "byebye"-
果てしなく続くとも思えるほど長く続いた荒野を抜けると、そこにあったのは港町。
実に1週間ぶりの町。
…自分たちが野生一直線な顔をしていないか心配だ。
「やーっと町に着いたのか…長かったなー」
「ええ…アルベラを出てからは大きな町はなかったしね…」
ミディは俺の背中で寝息を立てている。
あれだけ元気なミディも疲れて眠ってしまうほどにこの1週間は長かった。
ついでに言うと毛玉も寝ている。
「いや~、歩いた歩いた」
…なのに何でフィオはこんなに余裕なんだ?
まるでスポーツで軽く汗を流した後のような感じだ。
「長かったから疲れたね~」
嘘だ。絶対嘘だ。
「フィオ…とりあえず宿に連れてってくれ…」
全身はもう疲労の塊だ。
「ん? ああ、うん。じゃあ宿行ったら先に休んでていいよ。
ボク、船長に話つけてくるからさ」
「ああ、頼む」
フィオが先導して、残った俺達は宿に入った。
そのままフィオだけが港に向かう。
「…ん?」
フィオだけ?
エリアスはどうした…。
「…。」
エリアスは部屋の隅で椅子に腰掛けてぐったりと下を向いている。
そう言えば3日くらい前から一言も喋っていないような気が…。
「…おい、生きてるか?」
「…。」
返事がない。座ったまま寝ているようだ。
「…やっぱ」
体力が異常なのはフィオだけだったな。
よかったぜ、こいつだけでも普通の人間で…。
***
-翌日-
一晩ゆっくりと休んで疲れを取った俺達は、朝起きてさっそく港へと行った。
「紹介するね、この人が船長」
豪快に髭を生やした大男がそこにいた。
歳は40~50と言ったところだろうか。
「おう!」
なんとまぁ分かりやすい挨拶で。
「見た目通り豪快な人だけど、腕は確かだからだいじょぶだよ」
…いや、それ聞いたら余計不安になった。
「陸に沿って東にやればいいんだったな?」
「ああ、それで頼む。港が見えたらそこで降ろしてくれ」
「分かった」
それだけ言って船長はサッサと船に乗り込む。
「ああ、そうだ。航海中、俺の事はキャップと呼べ」
「…アイアイサー」
「いい返事だ」
満足した船長は出港の準備に取り掛かった。
***
突然にフィオが言う。
「出番を失うのは惜しいけど…」
…意味不明だ。
「…じゃなくって、ここで別れるのは残念だけど」
「そうだな、世話になったよ」
ここでフィオ達とは別れることになる。
ここから先はまた俺達3人の旅になるのだから。
「せっかく会えたのに…残念だなー…」
フィオがしょぼんと肩を落とす。
「また会えるわよ、きっと。あなた達はそのうち東に来るんでしょ?」
「そっそ。来た時にはテインツとかパトナとか探してみれば会えるさ」
「フィオ、げんきだして?」
3人にまとめて励まされ、フィオはいつもの顔になる。
「…へへっ。ありがと。ボクらしくなかったね…ごめんごめん。
それじゃ今度、エリアスとそっちに行くよ。ね、エリア…ス、って…あり?」
後ろを向いてエリアスを探すが奴の姿はどこにもない。
「…朝、宿を出る姿すら見てないんだが?」
「えええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
…叫びすぎだ。
「信じらんない~…バカなんだからホンットに…」
大きく溜息をついて頭を抱える。
「まぁいいじゃねぇか。エリアスだって疲れてたんだろうからよ」
「後で思いっきり怒ってやるっ…」
フィオはやる気だ。
「おーい」
船の上から声がかかった。
「いつでも出港できるぞー」
「おう、ありがとよ船長!」
「…航海中は俺の事はキャップと呼べと言っただろうが」
「そうだった」
ボリボリと頭を掻いて答える俺。
「でもまだ航海中じゃねぇし、船長」
「……なんじゃい」
「出港するから宜しく頼むぜ」
「おう!」
船長は意気揚々と船に戻っていく。
俺は軽く手を振って続いて乗り込んだ。
「よいしょ」
…ん?
「何してんだミディ? そんなとこで荷物ひっくり返して」
「んっと、おねがいするの」
…お願いする?
「ねぇ、フィオ」
「うん? なに?」
「はい」
ミディがフィオに差し出したものは、例の毛玉…ゆぅにだった。
「…え、ミディちゃん?」
「んっと、ゆぅにをフィオにおねがいしたいの」
「な、なんで? ミディちゃん、ゆぅにと仲いいのに…」
「うん、でもでも、ゆぅにがしんぱいだから…」
フィオはますます訳が分からない。
「んっとね…前に、木の実をあげたときはおいしそうに食べてたの。
でも、わたしの持ってた食べものあげたら、そのあと、なんにも食べれなくなっちゃったの」
「ふんふん…」
「それでね、また木の実あげたらおいしそうに食べてたの」
「うんうん」
「ゆぅには木の実を食べるって分かったんだけど、でも、
その木の実、あの山ではじめて見たの」
「…そっか、ミディちゃんの居る所にはその実がないから、
ゆぅにの食べる物がなくって…」
「うん…ゆぅに、おなかすいてこまっちゃうよ」
「そっかそっか…うん、分かった。ボクに任せて」
「おねがいします」
ぺこっ、と丁寧にお辞儀。
「ユニィは大きくなったら何でも食べれるようになるから、
そうなったらミディちゃんに会わせてあげれるよ」
「ホント?」
「ほんとほんと」
「そっかぁ…ゆぅに、早くおっきくなってね」
「キュ」
出来る限りに体を大きく見せながら、毛玉は答えた。
最後に一度、毛玉を撫でてからミディも船に乗り込む。
…なかなか乗りたがらないイリスを後ろから押しながら。
「はぁ…」
船に乗るなり特大の溜息を吐く。
「子供じゃあるまいし、少しは我慢しろよ…」
「少し…だといいんだけどね」
…まぁ俺もあの船長見てたら不安になったけどな。
どうなることやら…。
***
「ふう」
「キュ」
「行っちゃったねえ」
「キュー…」
手のひらで淋しそうに鳴くゆぅに。
「大丈夫だよ、ちゃんと約束守るから」
「キュ…。キュ?」
ゆぅには何かに気付いたようにボクの後ろを見た。
「えっ? …って、エリアス…遅い! もう行っちゃったぞ!」
「知っている。だから出てきたんだ」
えっ? と聞き返す暇もなく、エリアスは船の上の空めがけて1発、撃った。
「ちょっ、エリアス何やって」
ドーーー…ン。
「…へ? 空に火花?」
遠くの空には、色とりどりの火の粉がまるで花のように舞い散っていた。
「キュー…」
「へー、きれー…」
「ふん…ガキにはこれくらいが丁度いいか」
「…もしかしてエリアス、この準備してたの? ミディちゃんのために?」
「訳の分からない事を言うな。俺はただ新型の特殊弾の試し撃ちをしただけだ」
「ふぅ~……ん。まっ、そーゆーことにしときましょっか! ねっ♪」
「キュ♪」
「…。」
エリアスの額に青筋が浮かんだ。
「…何なら貴様を撃ち上げてやってもいいんだぞ毛むくじゃら?」
「キュ!? キュ、ギュー」
「あはは…まぁまぁ。ミディちゃんも喜んだだろうし、いいじゃない!」
「ふん…やれやれだ」
***
「すごかったねぇ」
ついさっき、まるで俺達を送り出すかのように空に花のように火が舞ったのだ。
「そうだな。綺麗だったなー」
「うんっ、きれいきれいっ」
俺にひっついてぴょこぴょこ跳ねてはしゃぐミディ。
「…。」
とは対照的に甲板で大往生…じゃなかった、立ったまま動かないのはイリス。
…というか動けないんだろうな。
「…ふふふ…」
と思ったら急に笑い出す。
「カイ…揺れてるわぁ…」
怖ぇ。
「揺れてるのはお前の頭だ」
「ふぇ…イリスぅ、しっかりしてよぅ」
…陸に着くまでずっとこの調子なんだろうか。
「はぁ~~~~~~~」
そう考えたら溜息しか出てこなかった…。
…いい加減慣れろっつーの。
-第16枠 了-
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