ミディの放浪日記~第17枠 ミディのさがしもの -見つけにくいものですか?-
(オリジナル)
作者:義歯
紹介メッセージ:
小さな女の子が紡ぐ小さなファンタジー物語。
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第17枠 ミディのさがしもの
船の上。ミディが海を眺めながら歌を歌っている。
「うーみーはーひろいーな、おおきぃーなー」
「つーきーはーのぼるーし、船しーずーむー♪」
「ふぇ!? カイ、ちがうぅ。しずむのはお日さまだよぅ」
「そ~だったかなー?」
「ぶぅ」
…俺達は風に乗って、もともといた大陸の東側に向かっている。
「…このまま進めば戻ることになるんだよな」
後ろの方で風を浴びていたイリスに話し掛けた。
「大陸一周…ね。喜んでいいのか分からないわね」
普通なら喜ぶべきことなんだろうけどな。
「…でも、ミディの…」
「分かってる。皆まで言うな」
大陸中を廻っても、ミディの探し物は見つからなかった。
…教えてくれない事を無理に聞きだすなんてつもりもなかったしな。
「ふう…」
俺は溜息をついた。
「…カイ?」
すぐそこには俺を心配そうな目で見上げるミディが。
「何でもねぇから、そんな心配すんなよ」
「でも…心配だよぅっ」
「気にすんなって…」
…ミディとかイリスの方が心配なんだからよ。
「あら?」
「んあ?」
「ミディ、これって何?」
イリスが、ミディの首の辺りを指差して尋ねた。
「どれ?」
「これこれ、ほら」
言いながらミディの首の辺りから鎖を引っ張り出す。
「ん。これはね」
ミディは自分から鎖を引っ張り出した。
その先端には小さなペンダントが、外れないようにしっかりと付けられていた。
「ペンダント?」
「ちょっと見せてくれるか、ミディ?」
「うん♪」
俺はミディからペンダントを受け取り、眺めてみる。
よく見るとそれは2つに分かれるようだった。
「写真が入ってる…ロケットってやつか」
中に入っていた写真には若い女性が写っていた。
「どかーーん!!」
爆発するミディ。
「…違う、そのロケットじゃなくて」
「…みゅ」
いや、残念がるな。
「…カイ、私にも見せて」
「ああ」
「…この人って?」
言いながら、ミディの方を向く。
「んっとね」
少しもじもじしながら、ミディは言った。
「このひと、わたしのさがしものなの」
「……え?」
「わたしね、このひとをさがしてたの」
イリスからペンダントを受け取って、写真と俺達を交互に見ながら言う。
「あのね…このひとね、おかあさん、って言うんだって」
「…えっ」
「えとえと…わたし聞いただけだからなんにも知らないんだけどねっ」
写真を見て、ミディは嬉しそうに笑う。
「えへへ…でもでも、すっごくびじんだよねっ」
「…。」
イリスは何も言わずミディを抱きしめた。
「ふぇ…イリス?」
「ごめん…ごめんね…ずっと気付いてあげられなくて…」
「イリス…泣いてるの…?」
かたかたと小刻みに身体を震わせながら、
それでもイリスはミディを離そうとしなかった。
「わたし…なにか悪いことしちゃったの?」
「ううん…何もしてない…。悪いのは私…私のほうなの…」
「ちがうもん、イリスわるいことしてないもんっ。だから泣かないで、イリス」
「…ミディ、」
「ふぇ?」
「きっと淋しかったよね…」
「…?」
「ずっと、一人でがんばってきて…」
「…えへへ。いまはさみしくないよっ」
抱きしめられたまま、ミディはにっこりと微笑む。
「だって、カイとイリスといっしょだもん」
「…ああ。そうだな…」
…近くに港が見える。
どうやら無事に東に戻ってこれたらしい。
(…。)
俺は何かすっきりしない気持ちのまま港を見ていた。
見ているだけでも風は流れ、船は進み、俺達は港へ。
帰るべき場所へと近づいていく。
「…ねぇねぇカイ、どぉしたの?」
「ん?」
ミディが不満そうな不安そうな表情で服を引っ張っていた。
「どぉしてなんにもお話してくれないの?」
話したいのは山々なんだが、口を開けるとミディを問い詰めるような言葉しか出てこない。
…そんな気がする。
だから俺は喋ってなかった。
「んー…? 海を見てるからさ」
誤魔化した。
「ふぇー、そっかぁ…じゃあじゃあ、イリスとわたしとさんにんで見ようよ?」
「ん? ああ。そうだな…」
「えへへ」
イリスを連れて来て、自分はちゃっかり俺達の間に入る。
にこにこ笑って海を見て…いつも通りなのはミディだけだ。
イリスも、ミディが母親探しをしているのが分かってからは殆ど無言。
時々、涙を零してはミディに気付かれないように拭う…こんな事をしていた。
「…なあ、ミディ?」
「なぁに?」
海の方を向いたまま、俺はぼそっと言う。
「お前さ、」
「?」
俺は言葉を切った。
(イリスと会う前は…やっぱずっと一人だったんだろうな)
「…いや、強いんだなって思ってな」
言い換えた…その割には正直な言葉が口から出た。
「ううん、カイとかイリスのほうが強いよっ」
俺とイリスはミディに目を向けた。
「そんな事ねぇよ」
「そんなことあるもんっ。だってね、カイはじゃんけんが強いし、
イリスはかけっこが強いんだよっ」
「じゃんけん?」
「…かけっこ?」
「うんっ!」
無垢な瞳で、無垢な笑顔を返すミディ。
俺は、思わずミディの頭をくしゃくしゃに撫でた。
「うわぁ~、ぐしゃぐしゃになっちゃうよぅ」
「イリスに直してもらえ」
「ぶぅ」
お願いするようにミディはイリスの方を向いた。
「いいわよ。すぐ直してあげるからね」
「わーい♪」
イリスは櫛を取り出し、ミディの髪を梳き始めた。
微笑んで、ゆっくりと髪を撫でているイリス。
にこにこ笑っているミディ。
いつも見てきた光景。
でもこれからは。
…俺は再び海を眺めた。
「はい、できあがり」
「わぁ♪ ふわふわ~」
ぐいぐい。
ミディが俺の足元で服を引っ張っている。
「えへへ。ふわふわだからさわってみてっ」
「いいのかなー? またぐしゃぐしゃにするぞ?」
「ふぇっ…いいもん、またイリスにしてもらうもんっ」
「どれどれ…だったら遠慮なく」
俺はミディの頭に乱暴に手を置いた。
「むぎゅ」
俺はそのままゆっくりと頭を撫でた。
「…ふぇ?」
始めは訳が分からないという顔をしていたミディ。
「えへへ」
少しすると、その顔には笑顔が戻っていた。
***
港を出た。
船長は暫くこの港で休んでから西に戻るのだという。
世話になった。ただ一言だけ俺は言った。
林に挟まれる街道…パス・トゥ・ラクソールを歩く。
目的地が無い訳ではない。俺はしっかりと目的の場所、目指す所が分かっている。
途中で休みながら、旅人とすれ違って挨拶をしながら。
こうして、何でもない3人組の旅人として俺達は歩く。
…ただ以前通った時と違うことは俺達の間で話し声が少なくなったこと。
「…ねぇ。」
そんな中、唐突にミディが言葉を発した。
「んっ、どうしたの?」
応えるイリス。
「…あのね。わたしね…『おかあさん』って…わかんなくなっちゃった」
困ったような、不安そうな表情。
「…え、分かんなくなった…?」
こくりと、大きく1回頷くミディ。
「ずぅっと『おかあさん』のことさがしてきたのに。
なんだかわかんないの。『おかあさん』ってなんなのかな…」
「それは…」
「…わたし、いまがいいな」
さっきよりもさらに不安そうな表情で俺達2人に言う。
「イリスと…カイと、ずっと、ずぅといっしょにいたいな…」
「…。」
言葉に詰まる2人。
「…お母さんは…どうするんだ」
「ちゃんとごめんなさいする」
ロケットをぎゅっと握りしめて、しっかりした口調で言う。
「…でも」
「イリスはいや? みんないっしょはダメ?」
「…嫌じゃない、けど…」
「…カイ、は?」
遠慮がちに聞いてくる。
「…。」
「…カイ?」
「……ダメだ。」
「なんで…?」
ミディの顔から表情が消える。
今まで、にこにこ笑ってばかりのミディからは考えられないような顔。
目には光が無く、顔全体からも生気が抜けてしまったかのようだ。
「…あのな」
「なんで、はなれなきゃいけないの?
どうして、ずっといっしょじゃダメなの?
どうして、どうして…」
「どうやってもどうにもならない事はあるんだ」
「どうして…どうしてぇっ!?
わたしヤだよ…淋しいのイヤだよ!
ずっといっしょがいいのに…どうしてずっといっしょはダメなの!?」
「甘えるな!!」
「ひぐっ…」
空気が一瞬、凍る。
「…う、うぇっ…」
「…悪かった。怒鳴ることは無かったよな…頼むから泣かないでくれ」
「うぇ…う、うん…。なかない…」
「よしよし…」
今までのようにミディの頭を撫でてやった。
「あのな、ミディ。聞いてくれ」
「うぅ、うん…」
「お別れってのは誰にでも、いつかは必ずやってくるもんなんだ。
…ミディはそれがちょっと早かっただけさ」
ミディはきょとん、とした表情を取り戻した。
「はやかっただけ」
「そうそう」
「もうない?」
そうとは言い切れない。
「ミディはもう無いと思うぞ」
憶測だけでもこんなことは言えるものではない。
だが、今は少しでも安心させてやろうと思った。
「でも…さびしぃようっ…」
「大丈夫…寂しくなんてないよ」
「ふぇ…どぉして?」
半泣きになったミディを、イリスが支えた。
「ミディには、お母さんがいるでしょ?」
「おかーさん…」
「そうだぞ。きっと、大切な人になる」
時間はかかるだろう。
今のミディにとって母親は『おかあさん』の固有名詞を持つただの年上の女性に過ぎない。
…母親の意味が分かり、母を母と分かった時。
「たいせつ…わたし、カイもイリスもたいせつ」
「ありがとな」
「嬉しいよ」
「えへへ」
ちょっと照れくさそうに、ミディは言う。
「…でもね、わたし、みんなみんなたいせつにしたいな」
***
-数日後-
「そろそろだな…」
目当ての場所に、もうすぐ着く。
ミディのさがしものが、もう、すぐそこにある。
「…ねえ、本当にこんな所に人がいるの?」
辺りは人など通らない、辺境の地。
とは言っても町は近くにある。
立地条件が良いとは言えないために人が集まりにくいだけなのだ。
だから、あの頃はよくこの辺りに集まっていたものだ。
…何かあったら、ここに来るようにしようと。
そんな事も聞いた覚えがあった。
「こんな所だからこそ人がいるのさ。」
自分の居場所を求めた人が。
自分の居場所を失った人が。
…自分の、大切なものを見失った人が。
「…早いとこ行こう」
くいっ。
1歩、踏み出したところで急に服の裾を掴まれた。
こういう事をするのはミディしかいない。
「…。」
「…おい?」
「…。」
ただただ首を横に振るばかり。
「それじゃ…分からないぞ」
「…ぅ、うー…」
今度は服に顔を擦りつけながら、声を殺しながら。
「うー…うぅ…!」
「…。」
俺は、ミディの頭に手を置いた。
「う…うわぁぁぁぁんっ!!」
今までからは考えられないくらい大きな声で、堪えることなく。
いつ止むか、分からないくらいに。
止めることが出来ない想いを全て吐き出すかのように。
…ミディは泣いて、泣いて、そして…泣いた。
***
「ぐす…うー…」
泣き始めて暫く、俺達はその場に座っていた。
「落ち着いたか?」
「うん…」
泣き止んで、一旦顔を離したミディがもう一度服に顔を近づける。
「どした?」
「すぅー」
ちーーーーん。
「鼻かむな!!」
「ぐしゅぐしゅ…」
…そして拭うな。
「ミディ…急に泣いて、大丈夫…?」
イリスが、ミディを心配して声を掛ける。
「んっと…あのね、わたしね…『おかあさん』に会えるのはホントにうれしいんだよ」
「うん」
「でもでも、そうしちゃうとなんだか淋しいキモチになるの」
母親と会うということは、俺達とは別れるということを意味する。
「大丈夫よ、ミディ」
「ふぇ、でも…」
「なーに…別れてもまた会えばいいんだ。な、ミディ」
ミディと、イリスまできょとんと俺の方を見た。
「ふぇー…そっかぁ、そうだね。そうだよねっ」
「よし」
目の前の道には長い長い坂道。
「ここを登りきればもうすぐそこさ。良かったなミディ、お母さんに会えるぞ」
「…あんまりよくない…。でもでもっ、お別れはすぐになくなるんだよね?」
『そうそう』
イリスも俺と同じ事を言う。
それがおかしかったのか、ミディはにこっと笑った。
「わたし、だいじょうぶだよ。『おかあさん』に会う」
「うん…頑張ってね」
「がんばる?」
不思議そうな顔をしてイリスを見返すミディ。
「どぉしてがんばるの? 『おかあさん』に会うのってうれしいことなんだよね?」
「え…あ」
「それに、イリスも、カイも。また会うんだもんねっ」
「ああ、そうだ。また会うぞ」
イリスが何か言う前に、俺は言葉を発した。
「ねぇねぇ、カイ…『おかあさん』って、ここから近いんだよね」
「ん? ああ…すぐって程でもねぇけど…」
この坂を越えた先に、小さな町があるはずだ。
俺はそうミディに教えた。
「じゃあ、わたしひとりでもだいじょうぶ」
え?
とててっ、と少し走って行くミディ。
ちょうど3人くらいの距離が開いた所で立ち止まり、こちらを向いた。
「カイ、ありがとう。わたし、とっても、すっごく、いっ…ぱい楽しかったよ」
「そりゃお互いさま」
「またあそぼうね♪」
「ああ。またな」
ミディはイリスの方を向いた。
「イリス、」
「…。」
「あのね…わたし、イリスがいてよかった」
「……うんっ」
下を向き、小さな声で答えるイリス。
ミディがそれを見てイリスに近寄った。
「ねぇねぇイリス、ちょこっとしゃがんで?」
言われるままに、イリスは姿勢を低くする。
「よいしょ…」
ミディは背伸びをして、そのままイリスの頭を撫でた。
自分がされたように、ゆっくりと、やさしく、何かを伝えるように。
「…ミ、ミディ…?」
「こうするとね、ぽかぽか~ってあったかくなるんだよ」
イリスのやさしさと、ミディのやさしさ。
今、俺達はそんな2人分のやさしさに包まれていた。
「あったかくなった?」
下を向いたままのイリスに、ミディは言葉をかける。
「う…んっ。とっても…」
「えへへ、よかった♪」
そして、再びミディは離れていく。
「…ね、ぜったいまた会うんだよっ」
「ああ、分かってるよ。約束だ」
「ウソついたらイリスにぐりぐりしてもらうからねっ」
「分かってる。ちゃんと何して遊ぶか考えておかないとな?」
「うんっ!」
ミディは1人、道を行く。
その先に待っているのが、幸せな未来であることを祈りつつ。
「…元気なやつ」
道の向こうで手を振っているミディ。
「ほら…お前も元気な顔で送ってやれよ」
「…だって、だって…」
仕方ねぇな。
「ほらよっと」
俺は自分で手を振るのと一緒にイリスの手を持ち上げてやった。
道の向こうで、ミディは笑っている。
楽しそうに、面白そうに。
暫くの間そうやって手を振っていたが、そのうちにミディは見えなくなった。
***
「…お前ねぇ」
「ぐすっ…」
さっきからイリスはずっと涙を拭っている。
「別れはすぐに無くなるって喋ったばっかじゃねぇか?」
「うぅー…ひくっ…」
「…ったく。これじゃどっちが子供だか分かりゃしねぇ」
「ぐすっ、だって…」
「この泣き虫」
「…あなたは淋しくないの?」
泣くのをやめて、イリスが聞いてきた。
「そりゃ淋しいさ。でもそれ以上にミディの探しものが見つかった事の方が大きいからな。
これで、ミディがようやく普通の女の子として生活できるって考えると…嬉しいじゃねぇか?」
「…うん」
「それと…」
「?」
少し考えてから俺は言う。
「ミディ、最後に手振ってたけど…アレ、お前を心配させないようにってやってたんだぜ」
たぶん。
「…そうだったんだ…。ミディって強いね…」
「ああ、俺らなんかよりずっとな…」
俺達2人は、木の根元に腰掛けた。
疲れた…ってわけじゃないけど、少し、腰を落ち着けたかった。
「ミディに会いに行くのは…いつにするかな…」
「あの子が大きくなってから…」
イリスが小さな声で言う。
「自分のことも、お母さんのことも全部…全部のことがわかってから…」
膝を抱えて、俯き気味に顔を伏せながら、呟く。
それを見て俺は軽く溜息を吐いた。
「先の長い話だな」
「大丈夫よ…私達とあの子は、いつでもずっと一緒だから…」
「ふー。じゃあお前もそろそろ自分のこと考えろよ?」
「えっ?」
呆気に取られた表情で俺を見返した。
「ずっとミディのことしか考えてこなかったんだからな」
「うん…そうね。」
イリスは顔を上げて、俺の顔を真っ直ぐに見た。
俺もまた、それを避けることなく見据える。
「会いに行く時は、2人で行きましょう?」
「つまんねぇ」
「…?」
「…なんつーか、その、だな…」
頭をボリボリ掻きながら俺はなんとか言葉を見つけ出す。
「それまでどうにかして一緒にいられるいい方法はないもんか?」
これを聞いてイリスは一瞬びっくりした表情になった。
が、すぐに元の顔に戻る。
「ん~、そうねー…」
上を向いて、何かを考える「ような」仕草。
その顔は微笑していたように思える。
「そうだ、」
イリスは、何かを思いついた「ように」俺の方を向いた。
「それを2人で考えるのも…いい方法じゃない?」
「…ははは、違いない」
「くす…」
俺は、そっとイリスの肩を抱いた。
イリスはそれを拒むことなく受け入れ、身を預けてくれた。
…空からは、眩しいほどの陽の光。
森からは、喧しいほどの木々の喧騒。
それでも、どこか落ち着いたような空気。
…もちろん、淋しさはある。押しつぶされそうなほどに痛かった淋しさが、まだどこかに残っている。
けれど、それは俺だけじゃ…私だけじゃない。
あいつだってそれを背負って歩いているんだ。
負けてたまるかと。撥ね退けるように。
俺達も…いつまでも浸ってられないさ。
***
-数日後-
昼食を終えて、少し休憩しているとき…俺は珍しく考え事をしていた。
世界を放浪しているという少女が俺達に与えた時間。
それは少女とともに過ごした時間。
少女は何を求めていた?
『おかあさん』。母親。誰もが持っているもの。あたたかさ。やさしさ。
求めていたのは誰もが持っているぬくもりを。
さらに俺は考える。
そして1つ、気付くことがあった。
ミディと旅をしたことはミディのためだけではないと。
俺も、ミディに教えられた。
いろいろと。…いろいろと。
今、俺の傍にはぬくもりがある。
それはたぶん、ミディが探して求めたぬくもり。
(…ぬくもり、か…)
「どうしたの?」
横で片付けを終えたイリスが話し掛けてきた。
俺の思考は途切れ、意識が現実に呼び戻される。
「あ、いや。別に」
「考え事? あんまり深く考えるのってよくないわよ」
「ん~…? イリスにそれを言われるとは思わなかったな」
「くす…そうかもね」
いつものように俺の横で笑っていてくれるイリス。
「…なぁ、イリス?」
「なに?」
「ぬくもりって何だと思う?」
唐突な質問。イリスは答えてくれるだろうか。
「私は…私にとってのぬくもりは、いっしょにいること…かな」
『一緒』。
ミディが大切にした言葉。今思えばその言葉の重みは全然違う。
「今もあると思うか、そのぬくもりって」
「もちろん、」
やさしい顔で、やさしい微笑みを向けて。
そして、俺に指を向けて。
「ここに、ね。」
「…お前って奴は~…」
どうにも照れくさくなってしまった。
「くす…」
「おらっ、行くぞ! 休憩終わり!」
「はいっ」
この坂を下ると、もう暫くはこの辺りに来ることはないだろう。
…ここまで来て最後の挨拶をするのも何だが、一応しておかないと。
また、不貞腐られても困る。
また、会おうな。
ミディ。
-17枠 了-
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